はじめに
この記事では、採用活動時に有効な、行動面接について、具体的な実施方法をご紹介します。
前提として、こちらの記事を読んでいただけると分かりやすい内容になっていますので、まだお読みでない方はぜひご一読ください
採用活動において、採用基準の決定は重要で、どのように採用基準を決めるのか、決めた採用基準をどう守るのか、採用基準に沿った人材を見抜くには行動面接が重要、という点についてご紹介しました。
この記事では、行動面接をする上で重要な要素となるSTARについてご紹介しながら、実際の面接の手順についても併せて説明していきます。
応募者の過去の行動を理解するための4つの要素(STAR)
行動面接においては、応募者のこれまでの「過去の行動事例」を収集していきます。
なぜなら、人がある特定の状況でとった行動は、同じ状況においても同じ行動を繰り返す可能性が高いからです。
行動例の収集は、過去の行動を手がかりに、将来の同じ状況で取る行動を予測することを目的としています。
例えば、
・行動は事実であり、誤解をされにくい
・面接担当の個人的印象が応募者の評価に影響を与えない
・応募者が嘘をつきにくい
ことがメリットとして挙げられます。
ただし、単に応募者の行動を収集しただけでは判断情報として不十分で、状況や背景もセットで収集することで行動の意味まで理解することができます。
つまり、以下の4つの要素
・行動を取り巻く状況や条件
・そのときの役割、取り組んだ課題
・個人がとった行動、または取らなかった行動
・行動による結果、成果、効果、変化
この4要素が揃って、行動事例ということができます。
この頭文字をとって、STARと呼ばれています。
応募者が具体的にとった一つの行動を、このSTARを丁寧に掘り下げて収集していく、というところが重要です。
また、STARの収集は、応募者の潜在化しているパーソナリティを浮き彫りにすることができます。つまり、潜在能力を見極めるために効果的な方法であるともいえます。
面接担当が戸惑うポイント
行動面接では、このSTAR情報を収集していくことがキモになっていますが、STARの要素が入っていないにも関わらず、面接担当が重要なことだと思ってしまう内容があります。
・個人の意見や考え
・将来や仮定の話
・具体的ではない曖昧な話
この点については、応募者が実際にとった行動ではないということを理解するのがポイントです。以下でご紹介します。
個人の意見や考え
「私は〜と考えています」「私は〜と思います」というのは応募者個人の考えを主張しているだけで、個人がとった行動ではありません。
例えば、子どもを扱う方法にものすごく詳しく、熱心な応募者がいたとして、もし実際に子どもと触れ合った機会がなかったらどうでしょうか?
「私は〜ということが保育には大切だと考えています」
応募者は悪気なく、上記のような発言をしてしまうことがあります。
この発言からは行動事例は読み取れません。
もしこのような発言があったときは、面接担当は慌てず追加の質問によって行動事例を聞き出しましょう。
将来や仮定の話
応募者はもちろん自分のことをよく思って欲しい、という心理が働きます。
そのため、「私は〜したい」「もし〜なら私は〜します」という表現を使うことが多くなります。
将来のことは誰にも分かりませんし、仮定は仮定の話なので、不確実なことです。
ここからも行動につながることは読み取れないので、追加の質問を行い、行動したことについての情報を収集しましょう。
曖昧な発言
例えば、「私が保育現場に入ることで、チームの雰囲気が良くなりました」「おおむね週の課題を達成できていました」など、曖昧な表現で、応募者がとった行動だと思ってしまいがちな内容が挙げられます。
具体的にどのような行動をとったのか、自身の役割はどうだったのか、背景や状況はどうだったのか、結果はどうだったのか、数字で分かるような具体的な情報がありません。
このような場合でも、追加の質問によって、情報を引き出すことが重要です。
行動の4要素、STARの収集方法
応募者の中で、STARについて理解している人はごく稀でしょうから、面接では自身がとってきた行動(Action)について話すことが多いでしょう。その結果どうなったか、というResultの部分を話すこともあるかもしれません。
その場合、SとTの部分が不足しているという形で応募者の回答を注意深く聞いて、整理していく必要があります。
話の中で、内容をSTARに分類しながらメモを取ることで、要素を集めやすくしていきます。
面接の中で、応募者の話を全てメモするのは難しいことです。
慣れないうちは、STAR要素の入っていない話は一切メモしない、という割り切りも必要になってくるかもしれません。
キーワードとSTARの頭文字でメモをするなどの工夫をしてみるのも一つの方法です。
実際の面接の手順
採用面接では、応募者と園の双方がコミュニケーションを行う場でもあるので、行動面接の際には、面接時間全体の構成をあらかじめ計画しておくことが重要です。
面接時に使うシートを手元におきながら、時間配分などを考えて進めることがおすすめです。例えば、面接を3部構成にして、
1.背景情報の確認、共有(10分)
アイスブレイク、自己紹介、流れの紹介など
2.情報収集(25分)
行動事例の収集
3.情報提供(15分)
園の理念やビジョン、仕事の魅力を伝える、応募者の疑問に答え、入社動機を形成する
というように、タイムスケジュールにそって進めてみてはいかがでしょうか。
1.背景情報の確認、共有
まず初めに、ここでは、応募者にリラックスしてもらい、信頼関係を築くことが目的です。今回の応募の背景や志望動機を確認するということもここでのポイントになります。
アイスブレイク
よほど面接慣れしていない応募者以外は、初対面では緊張しているものです。まずは面接とは関係ない話題から始めて、リラックスしてもらうことが重要です。例えば趣味や特技の話など、気楽ですぐに答えられる話が良いでしょう。
質問例:
「場所はすぐに分かりましたか?」
「今日はここまでどのようにして来られたんですか?」
「履歴書を拝見したのですが、〇〇がご趣味なんですね」
面接官の自己紹介
自分の名前、園(本部)での役職、仕事の内容などを簡潔に伝えます。面接担当の人となりを知ってもらうことで親近感を持ってもらい、信頼してもらうことで、話をしてもらいやすい状況をつくっていきます。
面接の目的や流れの説明
応募者はこの面接がどのように進んでいくのか不安を感じています。面接担当として、この面接を双方に有意義な時間にしたいこと、どのような流れで面接が進んでいくかを伝えることで、応募者が面接に臨む不安を解消します。
目的や流れを伝えることで、場当たり的な面接を防ぐこともできます。
園の説明、今回の応募に至った背景の説明
応募者に、どのような園なのか、なぜ今回募集をしているのか、という点を説明します。ここを丁寧に説明することで、応募者の入社意欲を向上させる効果にもつながります。
応募者がWEBなどで得た情報ではなく、実際に生の情報が聞ける、という点はポイントです。
応募者の自己PR
応募者に、自己紹介をかねて1分程度で自己PRをしてもらいます。話の内容が論理的ではなかったり、表現力が不足していたり、気づく点はあると思いますが、ここでは傾聴に徹して、特に本人が強みと感じている点については共感しながら褒める、というところがポイント。
転職理由・応募動機の確認
なぜ転職活動をしているのか、前職や現職で不安を感じていたこと(中途の場合)どのような基準で園を選んでいるのか、仕事をする上で大切にしていることは何か、などを確認します。ここも共感しながら確認するにとどめ、メモをしておくとよいでしょう。
職務経歴の不明点の確認
具体的な行動質問に入る前に、履歴書や職務経歴書、エントリーシートの不明点について確認したり、経歴や保有スキルの確認を行います。
例えば、
・短期間で転職を繰り返していた場合、その理由
・空白期間があった場合、その期間で何をしていたか
・転職回数が多い場合はその理由
・募集職種での経験やスキル
2.情報収集
この部分で、行動面接のキモとなるSTAR情報の収集を行います。ここでの質問には大きな特徴があって、すべて応募者の過去の経験から、行動に関する特定の情報を得ようとすることです。
具体的な行動に関するSTAR情報を収集することができれば、関連するスキル・ディメンジョンごとに、応募者の行動事例を分類することができます。
スキル・ディメンジョンについては、以下の記事を参考にしてみてください。
面接で使うのは行動質問のみです。
行動質問の特徴は、
・応募者に過去の行動を話してもらう
・概念ではない答えを引き出す
・応募者に正しい答えを示唆したり暗示しない(YES/NOで答えられるような質問をしない)
ありがちな質問を行動質問へ
よくある質問:「上司や同僚と意見が対立したらどう対応しますか?」
行動質問:「上司や同僚と意見が対立したことはありますか?」「どんなことですか?」「そのときあなたはどのような対応をしましたか?」
よくある質問:「新しい環境には問題なく馴染めそうですか?」
行動質問:「前回の転職時に、新しい環境に馴染むために何をしましたか?」
このように、概念を聞く質問や、誘導質問を、行動質問に置き換えて聞くことが重要です。
追加の質問で軌道修正する
先ほど、面接担当が戸惑ってしまうポイントであげた3つの回答から、STAR情報を引き出すためにする追加の質問をご紹介します。
・個人の意見や考えの場合
「そういう状況で、あなたはどう対応したんですか?」
「あなたがそう考えたのは、どのような状況があったからですか?」
「そう考えたことで、どんな行動を取りましたか?」
「そのような行動をとった時のことを話してください」
・将来や仮定の話の場合
「これまでに、〜の具体的な事例はありましたか?」
「過去に〜した例を教えてください」
「1番最近で〜をしたときのことを話してください」
「今までは〜はいかがでしたか?」
・具体的ではない曖昧な話の場合
「具体的にはどのようなことをしたんですか?」
「実際には何をしたのかお伺いしてもよろしいですか?」
「あなたが〜したエピソードの一例を紹介してください」
「そのような状況での具体的な事例を話してください」
このように具体的に質問をしていくことで、STAR情報を収集していきます。
3.情報提供
ここまででは、応募者を「選ぶ」ための質問や情報収集をしてきましたが、最後のパートでは、応募者から「選ばれる」ために、情報提供によって十分な惹きつけや動機づけを行います。
優秀な人材は売り手市場の中でもさらに引く手あまたです。
複数の園で面接をした上で、比較をしていることが多くあります。
競合園と比べての優位性を応募者に伝え、しっかりと志望順位を1位にしてもらうために、動機づけを行います。
応募者の疑問に答える
まずは応募者の疑問や不安を解消することが重要です。このときに、労働条件などの一般的な質問があった場合は、正確に答えるようにしましょう。
提示している募集条件と異なることを伝えてしまうと、応募者を不安にさせてしまい、かつ入社意欲も低下させてしまいます。
事前にしっかりと確認しておく必要があるでしょう。
以下、応募者からのよくある質問をまとめてみました。
・役職の変更やローテーションはありますか?
・グループ園での転勤はありますか?
・評価の方法を教えてください
・個人の目標や評価はどのように決められていますか?
・入社前に学んでおくことはありますか?
・繁忙期の就業時間は?
・残業や持ち帰りはありますか?
・研修制度はありますか?
・昇給制度について詳しく教えてください。
・離職率はどのぐらいですか?
・自分のアイデアを周りに伝えやすい環境ですか?
・仕事以外で職員同士の交流の機会はありますか?
など
応募者からの質問は、応募者からの関心や不安がある部分で、重要視している価値観や志向性が表れやすい部分です。
質問者の意図を汲み取って、園の魅力と併せてつたえることで入社意欲を高めることができます。
面接でしてはいけない質問
面接では、収集してはいけない情報として、「応募者本人の適性や能力とは関係のない項目」が挙げられます。
このような質問は、職業安定法の項目内で、収集してはいけないことが定められています。
例えば、
・本籍、出生地に関すること
・家族に関すること
・住宅状況
・生活環境、家庭環境
・思想、宗教に関すること(愛読書なども含まれます)
などです。たとえアイスブレイクのつもりでも、質問してしまうとすぐに信頼関係を失ってしまう可能性があります。
十分に注意が必要です。
面接準備
面接に臨む前に、あらかじめ履歴書や職務経歴書の情報を元に、事前に準備をしておく必要があります。
その際のポイントをご紹介します。
履歴書・経歴書のどこをみれば良いか
評価のポイント
ここまでの面接でのプロセスは、「採用基準を客観的に満たしているかを判断する」ためのゴールに向けて行われていたことでした。
整理すると、
・求める人物像についての採用基準を決める
・MustとWant要件を決めて、優先順位をつける
・面接では行動例を収集する
・行動例ではSTARの要素を収集する
面接後、
・集めた情報を採用基準項目に分類する
・個人評定を行う
ここから先は、組織によって異なりますが、
評定会議を行い、採否を決定する、という流れになります。
とくに個人評定の部分でのポイントは、評点を、0〜5(6段階)、0〜7(8段階)に分けて、中央値の点数をなくすということがポイントです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
具体的な面接を行うにあたって、どのような手順で何を聞いたら良いのか、というポイントを、実際の質問例などと併せてご紹介しました。
評価の基準や評価シートはこの記事を元に是非自園で作成し、客観的な評価に基づく面接をつくりあげてみてください。