令和7年度「処遇改善等加算」はこう変わる!幼保施設経営者が押さえるべき8つの変更点と実務対応を解説!

令和7年度より、保育士等の処遇改善を目的とした「処遇改善等加算」制度が大幅に見直されます。これまで複雑に分かれていた3つの加算が一本化され、申請手続きが簡素化される一方で、施設の経営戦略や人事制度に直接影響を与える重要な変更が数多く含まれています。

本記事では、こども家庭庁が開催したオンライン説明会の内容を基に、幼保施設の経営者および運営担当者の皆様が令和7年度からの新制度に円滑に対応できるよう、8つの主要な変更点を徹底的に解説します。単なる制度変更の紹介に留まらず、各変更が現場の実務や施設経営にどのような影響を及ぼすのか、そして今から何を準備すべきかという具体的なアクションプランまで解説します!

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目次

3分でわかる!令和7年度 処遇改善等加算の8大変更点

多忙な経営者・運営担当者のために、まずは今回の改正の要点を1分で把握できるよう、8つのポイントにまとめました。

  1. 一本化による事務負担の軽減複雑だった3つの加算(処遇改善等加算I、II、III)が、新「処遇改善等加算」に一本化されます。これにより、申請や実績報告の様式が統一され、これまで現場を悩ませてきた煩雑な事務作業が大幅に軽減される見込みです。
  2. キャリアパス要件の「必須化」:これまで任意であったキャリアパス要件が、基礎的な加算である「区分1」を取得するための必須要件となります。令和7年度は経過措置が設けられていますが、令和8年度からは完全必須化されるため、未対応の施設は早急な整備が求められます。
  3. 区分3(旧加算II)算定方法の変更:リーダー層の処遇改善を目的とする「区分3」の加算額算定が、これまでの固定的な計算式から、「所定の研修を修了した職員の人数」に直接連動する方式に変更されます。研修への投資が、そのまま加算収入に反映される仕組みです。
  4. 区分3の算定に関する「経過措置」:令和7年度に限り、加算額の算定時に「年度内に研修を修了する見込みの職員」も人数に含めることが可能になります。これは、制度変更による急激な加算額の減少を防ぐための1年限定の時限的措置です。
  5. 区分3の配分ルールの「柔軟化」これまで義務付けられていた「職員1名以上に月額4万円を配分する」というルールが撤廃されます。さらに、「研修修了見込み者」にも配分が可能となり、施設の実情に応じた、より柔軟で戦略的な賃金改善がしやすくなります。
  6. 賃金改善の確認方法の「簡素化」:賃金改善が適切に行われたかどうかの確認方法が、①加算額以上の改善が行われたか、②基準年度より賃金水準のベースを下げていないか、という2つのシンプルなポイントに集約されます。
  7. 月次支払要件の整理:賃金改善のうち、基本給または毎月決まって支払われる手当による改善額の要件が、「区分2と区分3の合計額の1/2以上」というシンプルなルールに統一されます。
  8. 「特別な事情」による賃金水準低下の容認:施設の経営状況が悪化した場合など、やむを得ない事情がある場合に限り、都道府県等への届出によって賃金水準の低下が認められる制度が新たに設けられます。これは、不測の事態に対するセーフティネットとしての役割が期待されます。

なぜ今、制度が変わるのか?処遇改善等加算「一本化」の背景

今回の抜本的な制度改正は、単なる手続きの変更ではありません。その背景には、長年にわたる保育現場からの声と、国が目指す保育の質の向上、そして経営の透明化という大きな流れが存在します。

現場を悩ませた「複雑さ」と「事務負担」

最大の改正動機は、旧制度の構造的な問題点にありました。従来の処遇改善等加算は、目的や対象者が異なる「加算I」「加算II」「加算III」という3つの制度が並立していました。それぞれの加算で申請要件や手続き、報告様式が異なり、施設や地方公共団体の担当者からは「制度が複雑で分かりにくい」「事務作業が煩雑で多大な事務負担が発生している」といった声が絶えませんでした。

説明会資料によれば、実績報告書だけで最大9枚にも及ぶ書類作成が必要となるケースもあり、本来、保育の質の向上や職員の処遇改善に充てるべき時間と労力が、事務作業に奪われているという課題が深刻化していました。今回の「一本化」は、こうした現場の負担を軽減し、制度をより分かりやすく、活用しやすくするための直接的な解決策として打ち出されたものです。

「見える化」というもう一つの大きな流れ

事務負担の軽減と並行して進められているのが、保育施設の経営情報の「見える化(透明化)」です。令和7年度から、子ども・子育て支援法に基づき、すべての保育所等は毎事業年度の経営情報を都道府県に報告し、都道府県がモデル給与や人件費比率などを施設・事業者単位で公表することが義務付けられました。

これは、処遇改善等加算の改正とは別の動きですが、根底にある思想は共通しています。つまり、国は公費(公定価格)がどのように使われ、それが職員の給与にどう反映されているのかを、保護者や地域社会、そして国自身がより明確に把握できる仕組みを求めているのです。

この二つの動きを合わせて考えると、国から施設へのメッセージは「申請プロセスは簡素化する代わりに、資金使途の透明性は高めてほしい」という、いわば「取引」として理解することができます。施設経営者は、事務手続きが楽になるという恩恵を受ける一方で、自施設の経営状況や職員への還元状況が外部からより厳しく評価される時代に入る、という認識を持つことが極めて重要です。

全体像の理解:旧加算I・II・IIIから新「区分1・2・3」への再編

今回の改正の核となるのが、3つの旧加算を「処遇改善等加算」という一つの枠組みに統合し、その中で「区分1」「区分2」「区分3」という3つのカテゴリーに再編した点です。この新しい構造を正確に理解することが、今後の実務対応の第一歩となります。

旧制度のどの部分が、新制度のどこに対応するのかを整理すると、以下のようになります。

  • 区分1(基礎分)旧「処遇改善等加算I」は、「基礎分」と「賃金改善要件分」で構成されていました。このうち、職員の平均経験年数に応じた昇給を目的とする「基礎分」が、そのまま新制度の「区分1」にスライドしました。対象は全職員です。
  • 区分2(賃金改善分)旧「処遇改善等加算I」の「賃金改善要件分」と、旧「処遇改善等加算III」が統合され、新制度の「区分2」となりました。この二つは、どちらも全職員を対象としたベースアップ等の賃金改善を目的としており趣旨が共通していたため、一つの区分にまとめられました。
  • 区分3(質の向上分)副主任保育士や職務分野別リーダーといった中堅・リーダー層の処遇改善を目的としていた旧「処遇改善等加算II」が、その趣旨を維持したまま、新制度の「区分3」にスライドしました。説明会では、旧加算IIと旧加算IIIの数字が入れ替わるように見えるため混乱しやすいとの注意喚起がありました。

この関係性をより深く理解するために、説明会で用いられた「3階建ての建物」という比喩が役立ちます。全職員を対象とする「区分1(基礎分)」が1階、同じく全職員対象の「区分2(賃金改善分)」が2階、そして中堅職員を対象とする「区分3(質の向上分)」が3階部分に相当するというイメージです。ただし、これはあくまで概念的な整理です。実際の制度運用では、区分1を取得していなくても区分2や区分3を申請・取得することは可能であり、建物のように下の階から積み上げる必要はない点に注意が必要です。

申請手続きにおいては、これら3つの区分について、一つの統一された様式の中でまとめて申請・報告を行うことになります。これにより、従来のように加算ごとに別々の書類を作成する必要がなくなり、事務作業の効率化が図られます。

表1:旧加算と新区分の対応・趣旨早見表

新制度 (New System)対応する旧制度 (Corresponding Old System)主な対象者 (Main Target Audience)趣旨・目的 (Purpose/Rationale)
区分1 (基礎分)旧 処遇改善等加算I (基礎分)全職員 (All Staff)職員の平均経験年数に応じた昇給
区分2 (賃金改善分)旧 処遇改善等加算I (賃金改善要件分) + 旧 処遇改善等加算III全職員 (All Staff)ベースアップ等、全職員の継続的な賃金改善
区分3 (質の向上分)旧 処遇改善等加算II副主任保育士・職務分野別リーダー等 (Deputy Head Teachers, Field-Specific Leaders, etc.)リーダー層の処遇改善による専門性向上とキャリアアップ支援

【重要変更点①】キャリアパス要件の必須化と経過措置

今回の改正で、経営者が最も注意すべきコンプライアンス上の変更点が、キャリアパス要件の取り扱いです。これまでとはその重要度が全く異なるため、早急な対応が求められます。

「減算」から「取得不可」へ

旧制度では、キャリアパス要件を満たしていない場合、処遇改善等加算Iの賃金改善要件分から2%が減算されるものの、残りの加算額は取得可能でした。いわば、少額のペナルティを許容すれば要件未達でも許される、という位置づけでした。

しかし、新制度ではこの考え方が根本から変わります。令和8年度(2026年度)から、キャリアパス要件を満たすことが、区分1(基礎分)を取得するための絶対的な必須要件となります。要件を満たさなければ、区分1の加算額はゼロ、つまり取得不可となるのです。

この変更は、キャリアパス要件を単なる「推奨事項」や「人事ポリシー」から、施設の基礎的な財源に直結する、極めて重要なコンプライアンス項目へと格上げしたことを意味します。

令和7年度限定の経過措置

この急激な変更による現場の混乱を避けるため、令和7年度(2025年度)に限り、特別な経過措置が設けられています。この1年間は、キャリアパス要件を満たしていない施設でも、区分2の加算額からキャリアパス要件分(旧制度の2%相当)の割合を減じることで、区分1自体は取得可能です。

これは、あくまで制度移行を円滑に進めるための時限的な救済措置です。この1年間の猶予期間は、国が「令和8年度までに必ずキャリアパス要件を整備してください」と明確なメッセージを送っていると解釈すべきです。この期間内に対応を怠れば、令和8年度以降、施設の財政基盤が大きく揺らぐリスクを直接的に負うことになります。

求められるキャリアパス要件の内容

では、具体的に何をすれば「キャリアパス要件を満たした」ことになるのでしょうか。説明会では、要件の内容自体は従来から変更なく、その位置づけが変更された点が強調されました。求められる取り組みは主に以下の通りです。

  1. キャリアパスの整備と周知: 職員の職位、職務内容等に応じた任用等の要件(キャリアパス)を定め、それを就業規則等の書面で整備し、全職員に周知すること。
  2. 研修機会の確保: 職員の職務内容や能力に応じた研修を計画的に実施するか、研修の機会を確保すること。
  3. フィードバックの実施: 職員の業務や能力について、定期的な面談等を通じてフィードバックを行うこと。旧通知では「能力評価」という表現でしたが、これが厳格すぎるとの意見を汲み取り、より対話を重視した「フィードバック」という表現に改められました。職員が自己評価を行い、それが組織全体の方向性とどう合致しているかを確認し合うプロセスが重要とされています。

国は、これらの取り組み内容について、画一的な基準を設ける予定はないとしています。「社会通念上明らかに妥当性を欠くもの」を除き、各施設の規模や実情に応じた主体的な取り組みを幅広く認めるという柔軟な姿勢が示されています。重要なのは、形式的に書類を整えることではなく、自施設にとってのキャリアパスとは何かを真剣に検討し、それを職員の成長支援と結びつけて具体化・運用していくことです。

【最重要変更点②】区分3(旧加算II)の抜本的見直し

今回の改正で最も複雑かつ影響が大きいのが、リーダー層の処遇改善を担う「区分3(旧加算II)」の全面的な見直しです。加算額の「算定方法」と、算定された額の「配分方法」の両方が大きく変わるため、分けて理解する必要があります。この変更は、施設の研修戦略と人事戦略を根本から見直すことを迫るものです。

5.1 加算額の「算定方法」の変更:研修修了者数が鍵に

加算額をどう計算するか、そのロジックが大きく変わりました。

旧制度の課題と新制度の狙い

旧制度(加算II)では、月額4万円の賃金改善を行う対象職員を1名以上確保すれば、施設の基礎職員数に応じた計算式(基礎職員数×1/3など)で算出される満額の加算額を取得できました。この仕組みは、最低限の要件を満たせばよいため、施設が複数のリーダーを育成し、研修を受けさせるインセンティブとして十分に機能していないという課題がありました。

そこで新制度では、この構造にメスを入れました。計算式自体(単価×人数)は変わりませんが、その「人数」のカウント方法が、「実際に所定の研修を修了した職員の人数」を上限とする方式に変更されたのです。

例えば、計算上の上限が5人分であっても、実際に研修を修了した職員が3人しかいなければ、加算額は3人分でしか算定されません。逆に、研修修了者が6人いても、上限である5人分までしか算定されません。この変更の狙いは明確で、研修への投資とリーダーの育成が、直接的に施設の加算収入増に結びつくようにすることで、職員の専門性向上とキャリアアップを強力に後押しすることにあります。

これにより、職員研修は単なる「コスト」や「質の向上のための取り組み」から、施設の収入を最大化するための「投資」へと、その経営上の意味合いが大きく転換したと言えます。経営者は、研修にかかる費用と、それによって得られる加算収入増を比較し、明確な投資対効果(ROI)を算出できるようになったのです。

令和7年度限定の極めて重要な経過措置

この新しい算定ロジックへの円滑な移行を支援するため、令和7年度に限り、非常に重要な経過措置が設けられました。

加算額算定(4万円対象の人数A)において、「研修修了見込みの者」も研修修了者としてカウントしてよい、という特例です。ここでいう「研修修了見込みの者」とは、以下の要件をすべて満たす職員を指します。

  • 年度内に所定の研修を修了する予定であること。
  • 研修計画にその職員が研修を受けることが明記され、本人に周知されていること。
  • 副主任保育士等に準ずる職位や職務命令を受けていること。

この経過措置は、現時点で研修修了者の数が不足している施設が、新制度への移行によって急激に収入を減らすことを防ぐための、いわば「資金繰りのための橋渡し」です。

ただし、これはあくまで1年間の特例です。もし年度内に研修を修了できなかった場合でも、令和7年度分の加算額の返還までは求められませんが、翌年度に速やかに研修を修了することが求められます。そして、その職員は令和8年度の算定において「見込み者」として再度カウントすることはできません。

また、この経過措置は4万円対象(人数A)のみに適用され、5千円対象の職務分野別リーダー等(人数B)には適用されない点にも注意が必要です。

5.2 加算額の「配分方法」の変更:大幅な柔軟性向上

加算額の算定方法が厳格化された一方で、その配分方法は大幅に柔軟化されました。これにより、施設はより実態に即した賃金改善を行えるようになります。

「月額4万円」配分義務の撤廃

最大の変更点は、旧制度で課せられていた「副主任保育士等1名以上に月額4万円の賃金改善を行う」という義務が完全に廃止されたことです。

新制度では、算定された区分3の加算額を、対象職員に対して1人あたり月額4万円を超えない範囲で、施設の判断により柔軟に配分することが可能になりました。これにより、「Aさんには3万円、Bさんには2万5千円」といったように、職員の役割や貢献度に応じた、きめ細やかで公平な配分設計が実現できます。

配分対象者の拡大

さらに、配分できる対象者の範囲も広がりました。加算額の「算定」対象は原則として研修修了者ですが、「配分」対象はより広くなっています。具体的には、以下の職員にも配分が可能です。

  • 研修修了見込みの者: 算定の経過措置と同様に、研修中の職員にも賃金改善の対象とすることができます。これにより、キャリアアップを目指す職員のモチベーションを早期に高める効果が期待できます。
  • 主任保育士等: 副主任保育士等の賃金改善によって、他の管理職(園長を除く)との給与バランスが崩れる場合、その調整のために主任保育士等に配分することが認められています。この場合、主任保育士等が副主任保育士等向けの研修を修了している必要はありません。
  • 職務分野別リーダー等: 施設が必要と認める場合、4万円対象の加算原資を職務分野別リーダー等に配分することも可能です。

ただし、従来通り園長への配分は認められていないため、注意が必要です。

表2:区分3(旧加算II)算定・配分ルールの新旧比較

項目 (Item)旧制度 (処遇改善等加算II) (Old System)新制度 (区分3) (New System)経営者への示唆 (Implication for Managers)
加算額の算定4万円改善対象者を1名以上確保すれば、基礎職員数×1/3で算定。研修修了者の人数分で算定(基礎職員数×1/3が上限)。研修投資が直接加算額に繋がるROIモデルへ転換。戦略的な研修計画が不可欠に。
算定の特例なし令和7年度限定で「研修修了見込み者」も算定人数に含めてOK(4万円対象のみ)。急な収入減を回避する猶予期間。この1年で研修計画を策定・実行することが必須。
配分ルール1名以上に月額4万円を配分することが必須月額4万円の配分義務は廃止。4万円を上限に柔軟に配分可能職員の貢献度や役割に応じた、より柔軟で公平な賃金設計が可能に。人事評価制度との連動も視野に。
配分対象者研修修了者。研修修了者+「研修修了見込み者」にも配分可能。研修中の職員のモチベーション維持・向上に活用できる。キャリアアップ支援の有効なツールに。

【重要変更点③】賃金改善の確認方法と基準年度の考え方

新制度では、賃金改善が適切に行われたかを確認する実績報告のプロセスも大きく変わります。様式の数が減り「簡素化」されたとされていますが、その計算ロジックはより精緻な理解を求められるため、注意が必要です。

新しい「2つの確認ポイント」

これまでの加算ごとに行っていた複雑な確認作業は、以下の2つのシンプルなポイントに集約されます。

  1. A:加算額以上の改善が行われているかこれは、当該年度に区分2と区分3で受け取った加算額の合計以上に、実際に賃金改善として職員に支払っているかを確認するものです。いわば、その年度の「収入(加算額)」と「支出(改善額)」を比較する分かりやすいチェックです。
  2. B:賃金水準のベースを下げていないかこちらがより複雑な確認ポイントです。加算による改善額などの一時的な影響を取り除いた上で、「加算年度(今年度)の賃金水準のベース」が「基準年度(前年度)の賃金水準のベース」を下回っていないかを確認します。これは、加算を職員に配分する一方で、施設の元々の給与水準(基本給など)を不当に引き下げていないかをチェックするためのものです。

「賃金水準のベース」の計算方法

この「ベース」を比較するために、それぞれの年度の支払賃金総額から、比較のノイズとなる特定の要素を足し引きする作業が必要になります。

  • 加算年度(今年度)のベースの算出:支払賃金総額から、①区分2・3による改善額、②定期昇給相当額、③公定価格の人件費改定分などを除外します。
  • 基準年度(前年度)のベースの算出:支払賃金総額から、①旧加算による改善額、②施設独自の改善額などを除外します。

この計算は、あくまで「賃金のベース部分」だけを抜き出して比較することを目的としています。そのため、給与計算を担当する職員は、どの手当がどの原資から支払われているのかを、これまで以上に正確に管理・把握する必要があります。

実務上の注意点

  • 職員の入れ替わりの考慮: この比較は、加算年度に在籍している職員が対象です。年度途中で入職した職員については、基準年度にも同額の賃金が支払われたと仮定して計算することで、比較への影響を中立化します。逆に、基準年度の末に退職した職員の賃金は、基準年度の総額から除外されます。
  • 超過勤務手当の調整: 働き方改革の推進などにより超過勤務時間が減少し、結果として超過勤務手当が減ることは望ましい動きです。しかし、これが原因で賃金総額が減少し、「賃金水準のベースが下がった」と見なされるのは不合理です。そのため、施設は超過勤務手当の減少分を支払賃金総額に加算して調整することが認められています。ただし、これは義務ではなく、施設の判断で行うことができます。

この賃金改善の確認方法は、報告様式の枚数が減るという意味では「簡素化」されています。しかし、その裏側では、各賃金項目を正確に分類し、複雑な計算を行う必要があり、実質的な事務負担はむしろ増大する可能性も否めません。給与計算システムの機能見直しや、担当者への十分な研修が不可欠となるでしょう。

【重要変更点④】経営悪化時に賃金水準の引き下げを可能にする「特別な事情」とは

今回の改正で新たに導入されるのが、施設の経営状況が悪化した場合などに、一定の条件下で賃金水準の引き下げを容認する「特別な事情がある場合の取り扱い」です。これは、介護保険分野で既に導入されている仕組みを、保育分野にも取り入れたものです。

制度の目的と概要

前述の通り、新制度では「加算年度の賃金水準のベースを基準年度より下げてはならない」という原則があります。しかし、定員割れによる収入減など、施設側の努力だけではどうにもならない理由で経営が厳しくなり、この原則を守ることが困難になるケースも想定されます。

この新制度は、そうしたやむを得ない事情がある場合に、都道府県等に届け出を行うことで、賃金水準が基準年度を下回っても加算の算定を継続できるようにする、一種のセーフティネットです。

手続きと要件

この取り扱いを受けるためには、法人の事業収支の悪化状況などが分かる内容を記載した「別紙様式7」を都道府県等に届け出る必要があります。これは、審査を経て「認定」を受ける類のものではなく、あくまで「届出」であり、記載内容に不備がなければ受理される運用が想定されています。

この届出が行われた場合、施設全体の賃金水準だけでなく、職員個人の賃金水準についても、低下させることがやむを得ない状況であると見なされます。

経営者が持つべき視点

この制度は、二つの側面を持つ重要なツールです。

一つは、予期せぬ経営環境の変化から施設を守るための不可欠な「安全弁」としての側面です。これにより、経営難が原因で加算を打ち切られ、さらに経営が悪化するという負のスパイラルに陥るリスクを回避できます。

もう一つは、労使関係における新たな論点としての側面です。賃金水準の引き下げは、職員にとって極めて重大な問題です。この制度を利用する際には、なぜそれが必要なのかをデータに基づいて職員に丁寧に説明し、十分な労使協議を経て合意を形成するプロセスが不可欠となります。経営者は、この制度を安易なコストカットの手段としてではなく、あくまで施設の存続と雇用の維持のための最終手段として、透明性を持って慎重に活用する姿勢が求められます。

まとめ:経営者・運営担当者が今すぐ取り組むべきこと

令和7年度からの処遇改善等加算制度は、単なる手続きの変更ではなく、施設の経営戦略、人事戦略、そして財務戦略そのものを見直すことを求める、大きな転換点です。新制度へ円滑に移行し、これを自施設の発展の機会とするために、経営者・運営担当者が今すぐ取り組むべきアクションプランを以下に示します。

  1. キャリアパス要件の確認と整備【最優先】
    • 自施設のキャリアパス(職位、職務、昇任要件等)が就業規則等で明確に文書化され、全職員に周知されているかを確認する。
    • 職員との定期的なフィードバック面談の仕組みを構築し、記録を残す運用を確立する。
    • 期限: 令和8年4月の完全必須化を見据え、令和7年度中に必ず対応を完了させる。
  2. 令和7年度の研修計画の策定とROIの試算
    • 区分3の加算額を最大化するため、誰を「研修修了見込み者」として計画に位置づけるか、戦略的に検討する。
    • 研修費用と、それによって得られる加算収入増を具体的に試算し、研修投資の優先順位を決定する。
  3. 財務シミュレーションの実施
    • 新しい算定ロジックに基づき、令和7年度の加算収入がどう変化するかをシミュレーションし、予算計画に反映させる。
    • 区分2と区分3の合計額の1/2以上を月々の給与で支払う要件を満たせるか、給与支払い計画を確認する。
  4. 給与規程・配分ルールの見直しと職員への説明
    • 区分3の「月額4万円」配分義務の撤廃を受け、自施設としてどのような基準で柔軟な配分を行うか、新しいルールを策定する。
    • 制度変更の内容と、それに伴う給与体系の変更点について、全職員を対象とした説明会を開催し、丁寧な情報共有と合意形成を図る。
  5. 実績報告・賃金確認プロセスの準備
    • 新しい賃金水準の比較計算に対応できるよう、給与計算システムや管理台帳の項目を見直す。
    • 給与計算担当者に対し、新制度の計算ロジック(特に超過勤務手当の調整等)について十分な研修を実施する。
  6. 「特別な事情」に関する労使での事前協議
    • 経営状況が悪化した場合のセーフティネットとして新設された「特別な事情」の届出制度について、その趣旨や目的を事前に職員代表等と共有し、万が一の事態に備えた相互理解を深めておく。

今回の制度改正は、準備を怠れば施設の経営を揺るがしかねないリスクを伴いますが、一方で、職員のキャリアアップと処遇改善を真に実現し、より強く魅力的な組織を構築するための絶好の機会でもあります。本記事が、そのための確かな一助となれば幸いです。

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