はじめに
幼保業界において、職員が抱える悩み事のうち「人間関係の悩み」は、時に退職理由になってしまうほど強いインパクトを持っています。
職員が人間関係に悩む理由はさまざまですが、プライベートでの問題はさておき、仕事上でのコミュニケーション
たとえば、
・上司との関係性
・同僚との関係性
に問題があると、業務が円滑に回らず、さらに人間関係が悪化するという悪循環を生んでしまいます。
コミュニケーションの問題は、職員それぞれが価値観を相互に理解することで、改善の可能性があります。
特にマネージャーは、職員の価値観の傾向を知っておくことで、適切な対応を取ることができるようになり、結果、円滑な職場の運営に繋がります。
今回の記事では、「職員それぞれの価値観の違い」を把握する上で便利な分類手法である
「ハーマンモデル」
についてご紹介します。
職員との面談にも役に立つ内容ですので、是非参考にしてください。
ハーマンモデルを知るメリット
ハーマンモデルとは、アメリカのネッド・ハーマン氏が体系化した大脳生理学に基づく行動分析手法です。
ハーマンモデルによって相手の考え方の傾向をつかむことができ、「どのようなことをより好むか」が理解できるようになります。
好み、傾向は行動に直結するので、職員の意思を理解するうえでとても参考になります。
4つの分類の特徴
ハーマンモデルでは、人の価値観の傾向を4つの象限に分類します。
世の中には多種多様の人材分析手法がありますが、この4象限という数がシンプルで分かりやすく、重宝されています。
以下の図に、それぞれの分類をまとめてみました。
一度、今の職場で誰がどこに当てはまるのか、自分も含めて考えてみてください。
※参考:コミュニケーションの困難度
・小(AとA、BとBなど同一象限)
・中(AとB、CとD)
・中(AとD、BとC)
・大(AとC、BとD)
あくまで困難なだけで、コミュニケーションを深めることで相互理解は可能です。
A象限(タイプA) 理性的タイプ
タイプAの職員は、論理的、分析的なアプローチを好みます。
数字やデータを根拠に、論理的に話すことで共感を得られやすいタイプ。
モチベーションを高める際にも、具体的な数字の目標を設定して、論理的に伝えるとモチベーションが上がります。
タイプAの人がよく使う口ぐせ:「要するに」「「〜ぐらい」だと分からない」「具体的な数字は?」
B象限(タイプB) 堅実的タイプ
タイプBの職員は、計画的で保守的なアプローチを好みます。
順序や規律を重視するので、計画を立てて、決まった順序で物事を行うタイプです。
モチベーションを高める際にも、計画を順序通りに伝え、ルールを根拠に説明するのが分かりやすいでしょう。
タイプBの人がよく使う口ぐせ:「最初は(まずは)」「次に」「順番に(時系列で)教えて」「マニュアルが欲しい」
C象限(タイプC) 感覚的タイプ
タイプCの職員は、直感、精神的なアプローチを好みます。
人同士のつながりを大切にして、コミュニケーションが好きなタイプです。
モチベーションを高める際にも、まずつながりや結束を重視した理由の設定をすると分かりやすいでしょう。
タイプCの人がよく使う口ぐせ:「みんなと一緒に」「〇〇な感じ」「感情が大事」「わかるわー」
D象限(タイプD) 冒険的タイプ
タイプDの職員は、創造的、革新的なアプローチを好みます。
独創的なアイデアや、未来像について考えるのが好きなタイプです。
モチベーションを高めるには、まだ誰もやったことのないことへの挑戦や、アイデアを出してもらえるような働きかけをすると良いでしょう。
タイプDの人がよく使う口ぐせ:「ざっくりいうと」「面白いでしょ?」「とりあえずやってみよう」「どーん、バーン、(などの擬音)」
各タイプの見分け方
基本的に4つの分類の見分け方については、診断用の質問があり、その質問への回答を総合的に分析することでタイプを判別するのですが、外から見える言動や行動にも特徴が表れていることがあります。
もちろん完全な診断ができるわけではないですが、行動と言動の特徴を各タイプ別に記載しますので、見分ける際の参考にしてみてください。
注意するポイントとしては、仕事上では本来の自分とは違う自分を演じている場合があるということです。まずは日々のコミュニケーションや面談などで、本来の姿にできるだけ近い状態を引き出してみてください。
タイプA:理性的タイプの人に多い言動、行動
・数値、データを欲しがる
・細かく指摘する
・仮説を立てることを好む
・結論から話す、話させる
・曖昧な表現を好まない
・起伏が少なく、淡々と表現する
よく使う表現
・「端的にいうと、一言でいうと、結論からいうと」
・「効率的な」
・「根拠はなんですか?」
・「データをください」
・「結論は?」
上記のような言動や行動が多くみられたら、タイプAに近い人物像の可能性があります。
タイプB:堅実的タイプの人に多い言動、行動
・保守的である
・勤勉、コツコツとやる
・スケジュールを気にする
・予定を立ててその通りに行動する
・前例、伝統を重んじる
・順序を守って話す
よく使う表現
・「現実的に」
・「前例がないので」
・「最初に、次に、」
・「一般的には」
・「順序立てて説明してください」
・「いつもはどうしてるんだっけ?」
・「期限は厳守でお願いしますね」
上記のような言動や行動が多くみられたら、タイプBに近い人物像の可能性があります。
タイプC:感覚的タイプの人に多い言動、行動
・自分からコミュニケーションを取りに行く
・人の気持ちを察しようとする
・相槌が多い
・アイコンタクトを取る
・基本的に友好的
・根拠は感情、みんなの和
よく使う表現
・「みんなで頑張ろう」
・「〜ですよね。」
・「大丈夫ですか?」
・「私が代わりにやりましょうか?」
・「みんなは何て言ってるの?」
上記のような言動や行動が多くみられたら、タイプCに近い人物像の可能性があります。
タイプD:冒険的タイプの人に多い言動、行動
・話題が豊富
・話が飛ぶ
・身振り手振りが大きい
・会話しながら相手以外を見ている
・たとえ話が好き
・新しい物が好き
・時間の概念が曖昧
よく使う表現
・「全体的に」
・「最先端の」
・「とりあえず」
・「たとえると」
・「ドーン、バーン、パッ」などの擬音
・「臨機応変に」
・「とりあえず大きなことをしよう」
・「おもしろそうですね」
・「こんなこと思いついたんですけど」
上記のような言動や行動が多くみられたら、タイプDに近い人物像の可能性があります。
このように、それぞれのタイプによって、よく使う表現や行動に違いがあります。
観察、コミュニケーションによって、大体のイメージがつかめたら、それぞれにあった対応をしてみましょう。反応をみて、また次のコミュニケーションに活かすことが大切です。
各タイプへの働きかけ方
タイプ別の価値観を理解すると、マネージャーが面談や声かけをする際に、効果的な言葉の掛け方が分かり、人に合わせて面談の仕方をカスタマイズできます。
例えばタイプAの職員には、「結論から先に話す」ことを好みます。タイプBの職員は、「順を追って説明する」こと、タイプCの職員は「困っていること(人)があるから力になって欲しい」ということが響くし、タイプDの職員は「新しいイベントを考えたいので、将来の園のために挑戦してみない?」ということが届きます。
質問をする際には、
タイプAの人は、結論から話すことを好むので、「実際のところどう思う?」「ひとことで言うと、何がしたい?」などの質問。
タイプBの人は、計画的なことや順番を好むので、「これまでの経緯を順番に教えて?」「まず何からやるといいですか?」などの質問
タイプCの人は、人同士のつながりや感情を大切にするので、「今の役割になって、どんな気持ちですか?」「周りの人たちとうまくやれていますか?」などの質問
タイプDの人は、創造性を重視するので、「思っていることを自由に話して」「将来的にはどうしていきたい?」などの質問
をすることで、話がしやすくなる傾向にあります。
注意点
ハーマンモデルを知ることで、それぞれの価値観が理解でき、コミュニケーションの助けになるのはメリットですが、以下の点には注意が必要です。
・あくまで職員は1人の人間、タイプに固執して決めつけない
・タイプに分類して満足しない
・タイプには相性があるが、コミュニケーションを諦めない
あくまでタイプ別の分類は、コミュニケーションを円滑にするための羅針盤です。
分類して満足してしまったり、一人ひとりを見ることを怠って、コミュニケーションが蔑ろになっては本末転倒ですので注意が必要です。
また、上述のように、タイプAとタイプC、タイプBとタイプD(図で言うと、斜めの象限の関係性)は、正反対の価値観を持っているため、理解、共感を得にくく、人間関係においても問題が発生しやすいタイプ同士ではあります。
しかし、コミュニケーションによって相互の理解が深まると、お互いの不得意分野を補うパートナーにもなります。
マネージャーはそれぞれの職員の特徴を掴んで、適切なコミュニケーションが取れるように促すことが重要です。
まとめ
コミュニケーションにおいて、相互の価値観を知り、理解することの重要性についてご紹介しました。
特にマネージャー職にある人がハーマンモデルを理解して使いこなすことができれば、職員に適切な対応を取ることができるようになり、結果、円滑な職場の運営に繋がります。
面談にも活用できるので、職員との面談に課題を感じている方は、以下の記事と合わせて参考にしてみてください。