スタッフ間の「価値観の違い」を理解し、チームで仕事を進める方法

目次

はじめに

幼保施設の現場では、同じ施設で働く職員間でも、様々な価値観を持った人たちがいます。そんなとき、どうしても価値観の違いを理解できずに衝突してしまったり、人間関係が悪化してしまうことも。

今回の記事では、アドラー心理学の考え方を取り入れながら、色々な価値観を持った人たちが、同じチームの一員として、一つの目的に向かって動く時のポイントを紹介します。

建設的な視点で考える

例えば転勤のある幼保施設で、クセのあるスタッフの多い、A園の主任になったケースを考えてみましょう。

建設的な方向に進むのは自分次第

Aさんは、「イヤなところに配属になったなぁ、大人しくしておいて、無難にやり過ごして、次の異動を待とう」と考えて、やる気のない態度で仕事を適当に切り上げて、普段から愚痴をいって過ごしています。

対して、Bさんは「クセの強いメンバーが多い、ということはメンバーはエネルギッシュかもしれない。ここでプラスの方向にチームが向かえば、もっといい園になるチャンスだ。」と考えて、メンバーをまとめて改善に動きます。

AさんとBさんでは、どちらがより建設的な視点といえるでしょうか。

自分の意にそぐわない異動で、納得のいかない職場であっても、「そこから何ができるか」を考えて、前向きで明るく健全な行動をした方が建設的です。

人は、Aさんのように「やらない理由」「できない理由」を環境や条件、周りの人のせいにしがちです。
ですが、同じ環境や条件、人間関係であっても、やる人はやるし、できる人はできる、どちらの道を選ぶかは自分で決めることができます。

どちらも選べるのであれば、建設的な選択をしよう、ということが大切です。

自分で選べるということは、全ては自分次第という、ある意味自己責任論にも繋がるドライさや厳しさを感じる人もいるかもしれません。

これは、自己責任と突き放している訳ではなく、もちろん環境の影響を受けてしまうことは考慮して、「環境の影響は受けるが決定打ではない、できるだけ建設的な方向に進むという芯を持とう」という自分の心のありようの話です。

この視点を心の芯におくことで、苦しときも、乗り切れるチャンスが見えてくるかもしれません。

他人の機嫌を取らない

職場では、不機嫌な人がいることがあります。そんなとき、「何かあったのかな?」「怒らせるようなことをしてしまったかな?」と、「原因」を探してしまったことありませんか?

このようなとき、アドラー心理学の考え方では、「原因」ではなく「目的」を考えます。

イライラする原因があるのではなくて、イライラすることによって「達成したいこと」、「伝えたいこと」(目的)があると考えるのです。

メンバーが不機嫌なところを目撃した時は、この態度によって何を実現したいんだろう、どんな目的があるのだろう、と考えると、解決策を見つけやすくなるかもしれません。

これは自分がイライラしたり、怒りの感情を抱いた時にも有効な方法です。怒る、ということが100%悪ではありませんし、人間の抱く自然な感情です。

この怒りの目的はなんだろう、なぜ自分は怒っているのだろう、怒ることで何を実現したいのだろう、考えてみると、意外に自分のことはわかってないんだ、ということに気づきます。
そうすると、すっと冷静に自分を見つめることができます。怒りの感情を感じた時には是非試してみてください。

人は劣っているから成長できる

私たちは誰でも、一人ひとり、「こうなりたい」や「こうありたい」というプラスの理想の姿や状態を感じることがあります。

ですが、今の段階ではその理想の姿に到達していない、すなわちギャップのある状態です。理想の姿に対して現状をマイナスに捉えてしまうことがあります。

この理想の姿との間にギャップを感じ、目標に向かって近づこうと努力するからこそ人は成長する、ということです。

「人はだれでも進化の可能性をもっており、成長しようとしている」というのがアドラー心理学的な考え方。劣等感をどう活かすかが重要だということになります。

劣等感は「感」という通り、主観的なものです。人の感じ方は様々で、周囲からは美人だと思われている人でも、容姿について劣等感を持っていることもあります。

ただ、この劣等感を持つこと自体を否定していません。
この劣等感を、「健康で正常な努力と成長への刺激」と位置付けて、ここから劣等感を使って自己否定に走るのか、建設的な方向に活かすのかを自分で決めることが重要です。

前にも述べた、建設的な方向に進む、という心に持った芯が大切になってくるわけです。

協力することで進化する

人間は、個体、1人でできることには限界があります。共同体を作って協力し合うことで、大きな目標を達成してきたからこそ、「共同体を信頼すること」、「自分らしさを活かして共同体に貢献すること」が生まれつき備わっているというわけです。

共同体に対する「信頼感」「貢献感」「所属感」などを総称した感覚、感情のことを「共同体感覚」といいます。

この共同体感覚を考えた時、チームにとって、園にとって、社会にとって、という観点はとても重要です。

しかし、これは単に「仲良くする」ということではありません。
信頼関係やパートナーシップがお互いにある上で、共通の目的のためにそれぞれが「何ができるか」を考えることが重要です。

共同体の中で、そこにいる仲間に信頼感を持ち、自分の役割は何か、共同体のためにどうすべきか、という貢献感をもつことが大切です。

そして、自分の居場所はここにある、ここにいれば安心、という所属感があることで、より自分の力を発揮しやすくなります。

価値観を合わせる

一人ひとり自分の価値観フィルターを持っている

いくら多様な価値観があるとはいっても、価値観があまりにも違うと問題が起きやすいということはご経験があるかもしれません。

例えば職場で2人の人物が仕事のやり方について激論をかわしているとして、その状況をみた時にどのように感じますか?

・好ましく捉える
・喧嘩しているのかと嫌な気持ちになる
・野次馬根性で面白そうだと思う

同じ出来事を見ているのに、捉え方が全く違います。

このような自分だけがもつ独自の認知のことを「私的論理」ともいいます。

この私的論理が極端に歪んでいる場合もあります。
極端に歪んだ私的論理を持っていた場合、人間関係で問題が起きたり、職場で不協和音が起きやすくなってしまいます。

そういう人は、ものの見方や捉え方がまわりの人の感覚と比べてバランスが悪いのです。
この場合は、まわりの人のものの見方、捉え方や価値観に、自分の感覚を近づけていくことが大切です。

チームや園の中で、大勢を占める感覚と自分の感覚とがかけ離れていて、かつ建設的で健全ではない場合、歩み寄る姿勢が大切です。

ただ周りとずれている、だけならそこまで問題はないのですが、ズレていることによって、不都合を起こしている場合は修正する視点を持ってもいいね、ということです。

より多く・広く視点をもつ

共通感覚と私的論理があまりにもズレた場合の修正のポイントがあります。
それは、「より多く」「より広く」という視点を持つことです。

例えば自分とチームの価値観がズレた場合、今度は園、さらには地域、最終的には社会、など、より多く、広くの視点を持って考えていくことで、感覚をチューニングしていくことがポイントです。

特にリーダーは、何か衝突や不具合が起きた時、「私はこう捉えているけど、他の人はどう捉えているだろうか」ということを考える習慣をつけて、周りの人の意見を聞いてみると、人間関係でぶつかったり問題が起きるということが減っていくかもしれません。

極端なものの見方を避ける

自分の言動に着目してみると、していないようで意外としている言動があることに気づきます。
その中の代表的なものとして、「決めつけ」があります。

「絶対〜」「〜に違いない」「必ず〜」といった、断定する言葉で表現していることありませんか?

このような「決めつける言葉」が出てきた時は要注意です。
そのときは、

・本当に”絶対”のことなのか
・”違いない”と決めつける前に、他に可能性はないか
・”必ず”と思う根拠は?

と自分に問いかけてみてください。

特に人に対してミスや失敗を指摘する時は、この言葉を避け、事実のみを指摘するようにしましょう。

その指摘も、目的は叱責や自身の怒りを解消するものではありません。チームが目的に向かって建設的に進むための言葉を選びましょう。

また、
「みんな」
「いつも」

という言葉で、1人や1回のことを大きく一般化することにも注意が必要です。みんなとは本当に全員ですか?いつもとは毎回必ずですか?少ないサンプル数で、全体を表現すると、認識を見誤ってしまう可能性があります。

この表現にも注意が必要です。

「べき」や「ねばならない」を手放してみる

リーダーに限らず、人間関係が苦しくなりがちな人の特徴として、
「べき」「ねばならない」という思考回路が強い人が挙げられます。

こうした考え方を強く持っている人は、自分で自分をルールで縛りすぎてしまい、やりすぎて苦しくなってしまいます。

この価値観を相手に押し付けるようになると、人間関係がギクシャクしてきます。ルールや正論ばかりで相手も苦しくなってしまうのです。

「べき」「ねばならない」は、一般的な正論や常識に見えて、実は自分の価値観そのものです。誰にでも共通の「正しさ」ではありません。相手にも相手の価値観や事情があるのだ、という前提の元、どのように相手が思っているのかを聞く、というところから始めてみてはいかがでしょうか。

他人の行動や言動に反応しすぎない

「自分の課題」と「相手の課題」は分ける

目の前の相手の機嫌が悪かったとき、こんなことを考えてしまったことはありませんか?

・さっきの一言が何か悪かったかな?
・あの程度のことで不機嫌になるなんて
・チーム内でうまくいってないのかな?

このように、他人の態度や言動にたいしてすぐに反応してしまうタイプのリーダーやスタッフがいます。

こんなとき、相手にも事情があります。
相手の不機嫌は本来、相手が決めているのです。

言い方を変えれば、相手は自分で選んで、”勝手に”不機嫌になっているともいえます。

不機嫌な相手に対しては、不機嫌な理由を探すのではなく、自分に原因を求めるのでもなく、その人自身の問題だと分離して接することが大切です。

これを、「課題の分離」といいます。

「馬を水飲み場に連れていくことはできるが、馬に水を飲ませることはできない」という格言を聞いたことはないでしょうか?

相手に対して色々とお膳立てをすることはできても、最終的な行動を決めるのは相手です。

何か問題が起きた時、今起きていることは、誰の課題なのかを考えてみることが重要です。

もし誰の課題かわからなくなってしまった場合は、「この行動の結末は最終的に誰に降りかかるのだろうか」と考えてみてください。

これで、「相手の課題」と「自分の課題」を分離することができます。そうすることで自分のやるべきことが分かり、人間関係がシンプルになります。

つまり、やるだけのことをやったら、あとは相手の課題だと思えるようになるのです。

チームで協力して課題に取り組むには

職場でもし問題が起こった場合、この問題が全て共同の課題になるわけではありません。

・どちら側からでも「相談」「依頼」があった場合
・どちらかが「迷惑」を被っている場合

このような場合は、「共同の課題」として、お互いに協力して乗り越えていく必要があります。

課題の分離ができたあと、そのままこの課題はあなたの課題です、という態度で接してしまうと、相手は手を離されたような気持ちになります。

課題の分離はあくまで一旦もつれた糸をほぐすようなもの、というイメージで捉えてみてください。その後には、お互いに協力する、という協力関係があるのです。

その際、「共同の課題」として、協力するには、

・はっきりと言葉に出して相談、依頼をすること
・共同の課題になるかどうかを話し合うこと
・共同の課題となった場合、協力して解決策を探すこと

この手続きが重要です。
黙っていては何も進みませんから、はっきりと口に出すこと、そして、口に出しやすい環境を作ること、が重要です。

職場の心理的安全性を高める

安心して働ける職場になっていますか?

もしあなたの職場に仮に、職歴が長いだけで、仕事をしない先輩がいるとします。お給料もあなたより高いのに、仕事はせずに高圧的な態度で接してきます。

あなたや同僚、後輩たちは、この先輩に対して、「あの人がいると、一生懸命仕事をしている私たちはもう我慢できません」と怒ってしまうかもしれません。

この先輩に対しての相談を、リーダーが引き受けたり、この先輩に対してチームが迷惑を被っていれば、この先輩への対応はチームの「共同の課題」となります。

この課題を考えていく時に、重要なベースとなるのが、「共同体感覚」です。

この共同体感覚は、仲間の人間に関心を持ち、信じること、一人ひとり個性の違う人間として尊重、尊敬することです。また、その共同体にいる仲間の幸せや成長に対して、「自分は何ができるか」と考え、貢献できる姿勢です。「ここに居場所がある」「ここにいていいんだ」という所属感も含みます。

このような感覚を「共同体感覚」といいます。

この「共同体感覚」があるチームは、心理的安全性が高いチームとほぼ同義です。心理的安全性が高いと、意見を言いやすく、協力して目標に向かって仕事を進めやすいので、生産性が高いと言われています。

先ほどの仕事をしない先輩の相談を受けたリーダーは、共同体感覚を高めて「今から私たちがどうしていけば、仕事をしない先輩も職場で力を発揮できるか、仕事がしやすいか」という問題に取り組み、解決策をチームで考えていけば良い、ということになります。

ぜひ、建設的に考えてみましょう。

共感の力をつける

他人に関心がない人(ローパフォーマーに多い)、利己的な人(はいパフォーマーの中にこのような人がいる)に、「共同体感覚」を持ってもらうにはどうしたらいいでしょうか?

この問いに答えるには、「共感力」がキーポイントになります。

共感とは、「相手の目でみて、相手の耳で聞いて、相手の心で感じること」すなわち、もし私が相手の立場だったら、どのように感じるか、思うか、どう行動するかと考えることです。

相手の感情に寄り添うことが重要です。そのためには、実際に現場に行く、ということも大切です。特に幼保施設の役員や本部職員にとって、現場に行く機会は相当減っていることでしょう。

共感のためには、現場に行って、実際に相手の立場を体験してみることで、より理解がしやすくなるということは意識しておきましょう。

共感とよく似た言葉で、同情という言葉があります。
共感は自分を保ちながら行えますが、同情は自分と相手がまるで一体化してしまうことなので、分離ができずに混同してしまいがちです。

また、共感には、自分を超えた立場で状況をみる、セルフモニタリングの視点も必要です。そのうえで、相手の感情、思考、状況を頭で考えます。この意味で、共感は習得が可能な技術であると考えることもできます。

今は共感力がなくとも、訓練で習得できるものなのです。

この共感を通じて、相手の立場を理解することができます。そして、その先に、相手との協力関係を築くことができるのです。

目的や目標を掲げ続ける

目的を理解して・目標に落とし込む

職場では、一人ひとりがそれぞれのリーダーシップを元に動くことが重要です。役職としてのまとめ役、リーダーになったら、それぞれ目的や目標を示すことが必要になります。

では、目的と目標の違いはどのようなものでしょうか。

・目的とは、何のためにやるのか
・目標とは、どこに向かって進むのか

というところが違いです。

目的の方が、目標の上位にくる概念です。
リーダーは、目的を理解した上で、目標に落とし込む力が必要とされます。

では、目標の設定時には、どのようなことに注意する必要があるでしょうか。重要なポイントは「ぐ・た・い・て・き」という語呂で覚えてみてください。

・ぐ(具体的:具体的にどういうことか、という深掘りが大切)
・た(達成可能:高すぎるハードルはモチベーションを下げてしまいます。すこし頑張れば達成できそう、ぐらいのハードルを意識しましょう)
・い(意欲的:メンバーが意欲をもって取り組める目標であれば、多少ハードルが高くても大丈夫)
・て(定量的:数値で測れる目標を設定しましょう)
・き(期限付き:期限があるということは重要です。進捗が確認できる、成長を実感できる、などのメリットが)

このように、「ぐたいてき」を意識して目標設定してみてください。

指摘の際には、解決策や視点の提供をセットに

目標に向かってチームで動いていく時に、うまくいかなかったり、立ち止まってしまうメンバーが出てきてしまうこともあります。

リーダーはその人たちに適切な声かけをして、再度導いていくことも重要です。
その際に、「なぜ?」を連発して、原因を追求することはあまりおすすめできません
なぜの連発は、解説にはなりえますが、解決にはつながりません。「なぜ」は相手を責める言葉に聞こえがちなのです。

建設的な人は、なぜ、ではなく、「何のために」と目的を聞く、あるいは「どうやって」と考えます。どちらも未来志向で、建設的な考え方です。

リーダーとして、何のために、どうやって、という視点を常に意識して、未来志向の解決策を話していきましょう。

リーダーが大切にするべきポイント

リーダーは、メンバーを的確に評価して、能力を引き出す、という役割を持っています。
そこで大切な視点は、「人間をどう見るか」という視点です。

同じ行動ひとつとっても、肯定的にみるか、否定的にみるか、によって、メンバーへの接し方や、仕事の進め方、ひいては生き方も変わってきます。

悪いところだけをみても、物事は解決しません。良いところを活かして協力し合う方がよほど建設的にものごとが進みます。

また、大局的にみる、ということも重要です。
常に仕事の目的、という大きな視点を持っていることで、間違えた方向に進んだ時にもすぐに軌道修正ができること、ものごとの進み方がよくなること、などがメリットです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
今回は、色々な価値観を持つメンバーをどのように理解すれば、仕事がうまく進むかについてご紹介しました。
是非、みなさんの職場でも実践できることからはじめてみてはいかがでしょうか。

この記事は、以下の書籍を参考にしています。


参考文献:株式会社ディスカヴァートゥエンティワン「みんな違う、それでも、チームで仕事を進めるために大切なこと」 著:岩井俊憲

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この記事を書いた人

株式会社シェンゲン執行役員、人事責任者
「保育のカタチ」事業責任者、採用支援コンサルタント

前職ではリクルートの代理店にて、7年間1,000社以上の採用支援を担当。シェンゲン入社後は、幼保業界の「人」に関する問題解決に特化した専門家集団「保育のカタチ」を立ち上げ、事業責任者として従事。

保育園の統括マネージャーとして運営にかかわりつつ、保育士転職サービスでのキャリアサポートや、保育園への採用コンサルタントも行う。

採用活動を内製化する伴走型の採用支援や保育士向けの研修、紹介予定派遣などのサービスを公共機関や幼保施設の運営法人に向けて提供中。祖母、母、妹が保育士という保育士一家で育った。

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