保育士の仕事は子どもたちの保育だけではない。事務作業も大切な業務。
保育士の業務というと、歌を歌ったり、子どもたちと遊んだり、またはごはんを一緒に食べたり、おむつ替えをしたりなど、子どもたちの保育業務を想像されると思います。
しかし、保育園の業務は前述のような保育業務だけではありません。子どもたちの保育の他に保育士たちはさまざまな事務の仕事をしています。
特に、事務業務は保育士の専門性を担保しているような重要な内容もあり、保育士の業務の中でもかなりのウェイトを占めています。
こうした事務作業は、保育業務の間にはできませんので、子どもたちが来る前、あるいは帰った後に行うことになり、方法もかなりアナログに行っている保育園さんが多いです。
保育士の仕事の持ち帰りや残業の原因になっていることもあります。
今回はそんな保育士の事務作業を紹介するとともに、事務作業の重要性と、保育士の事務作業の効率化のコツをご紹介します。
保育業務以外に保育士が行っている業務とは?
保育業務以外で保育士が行っている業務は、以下のようなものがあります。
見出しを見るだけでも、かなりの業務があるのが分かりますね。
一つずつ紹介していきます。
保育計画・記録の作成
保育士の事務作業でもっとも重要と言えるものは、保育計画・保育記録の作成です。
保育計画・記録の作成は、保育士を保育士たらしめる、専門性を担保している業務といっても過言ではありません。
計画を立て、記録をつけて振り返りながら、改善を重ねていくもので、もしこの計画がおざなりだと、その場しのぎの質の低い保育になってしまいます。
保育計画は大きく分けて、
・短期計画(日次・週次)
・長期計画(月次・年間)
の2種類に分かれます。
保育計画は、保育所保育指針に基づき、下記のような内容にする必要があります。
「保育所は、全体的な計画に基づき、具体的な保育が適切に展開されるよう、子どもの生活や発達を見通した長期的な指導計画と、それに関連しながら、より具体的な子どもの日々の生活に即した短期的な指導計画を作成しなければならない。」(保育所保育指針1章3条2項ア)
つまり、全体的な方針となる「全体的な計画」と、その方針を実現するための「具体的な計画」として、年間計画以下の保育計画を決めていくことになります。
それでは、一つずつ説明していきます。
全体的な計画
保育園の「全体的な計画」は2018年4月から導入されました。
これまでの「保育課程」にあたるもので、従来の保育課程より乳幼児期の教育を重視している点がポイントです。幼稚園やこども園と同じように小学校入学へつながる学びの連続性を意識した、より幅広い内容が求められます。
保育園の運営や保護者との関わり方などを全て含めたものとなるため、食育や家庭の事情、園の方針まで、子どもたちの環境を考慮しながら、長期的な計画を立てて作成することが重要です。
年間計画
「全体的な計画」を実現するために、この1年で何をするのか、を決めるのが年間計画です。
1.1年間を季節ごとに区分して、それぞれの季節にふさわしい保育内容
2.行事、イベントに対する長期的な見通し
3.各保育所の方針、理念も考慮
年間計画では、1年間の流れを意識しながら、子どもの成長を促す保育内容を考えていくことが大切です。
月案(月次計画)
月次の計画は、上記の年間計画をさらに月ごとに区切って、具体的に作成するものです。
1.年間計画に基づき具体的な計画を作成
2.前月末を振り返って、子どもの成長や発達を考慮して設定
3.季節や時期に合わせた行事を考慮
子どもの発達を一人ひとりみながら、それぞれの子どもたちにあった保育者の援助、支援について具体的に記載していくことが大切です。
週案(週次計画)
短期的な計画のうち、週案は、年間計画や月案をもとにして、さらに具体的な計画として作成するものです。
1.前週を振り返り、子どもの姿勢、態度、発達の度合いや、興味や関心を踏まえて作成
2.週全体の天候や気温の動きも予測して、計画を作成
週ごとに、ねらいを達成するためにはどうすればよいか、ということを考えて作成することが重要です。
日案(日次計画)
日案は、月案や週案をもとに、その日に何をするかを計画します。
1.前日を振り返って、前日に行った遊びや、子どものつながりを大切にする
2.時系列で活動・子どもの姿・保育者がどのような援助をしたか、詳細を記載
3.天候によってどのような活動をするか、体調不良の子がいた場合どう対応するか等、様々な点に配慮した保育を具体的に記載
行事の日案や複数担任の場合は、保育士の動きや担当など、当日の動きや共有しておくことも記載しておくと、スムーズに保育を進めることができます。
食育計画
食育とは、生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるものであり 、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実現することができる人間を育てることです。
引用元:農林水産省HP:食育の推進 https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/
保育指針においても、
「健康な心と体を育てるためには食育を通じた望ましい食習慣の形成が大切であることを踏まえ、子どもの食生活の実情に配慮し、和やかな雰囲気の中で保育士等や他の子どもと食べる喜びや楽しさを味わったり、様々な食べ物への興味や関心をもったりするなどし、食の大切さに気付き、進んで食べようとする気持ちが育つようにすること。」
(引用元:保育所保育指針)
と表記され、
「現在を最もよく生き、かつ、生涯にわたって健康で質の高い生活を送る基本としての「食を営む力」の育成に向け、その基礎を培うことが保育所における食育の目標である。このため、保育所における食育は、楽しく食べる子どもに成長していくことを期待しつつ、次にかかげる子ども像の実現を目指して行う。
① お腹がすくリズムのもてる子ども
② 食べたいもの、好きなものが増える子ども
③ 一緒に食べたい人がいる子ども
④ 食事づくり、準備にかかわる子ども
⑤ 食べものを話題にする子ども上にかかげた子ども像は、保育所保育指針で述べられている保育の目標を、食育の観点から、具体的な子どもの姿として表したものである。」
と具体化されています。
食育計画表のポイントは、
・園全体と各クラスで分けて、発達に応じた計画を立てること
・年齢によって、食べられるものに違いがあり、発達の度合いを考慮しながら目標を立てること
以上になります。
保育経過記録
保育経過記録とは、保育経過記録は日々の保育のなかで「子どもたちがどのように成長しているか」を継続的に記録するものです。
保育日誌が「その日の振り返り」であるのに対し、保育経過記録は「成長状況の記録」という違いがあります。
連絡帳の記入
連絡帳は、保護者と保育者が子どもの様子について連絡を取り合うものです。
不足した物、持ってきて欲しいものなどの事務連絡などの他に、保育園の日々での子どもの様子を保育者が記載することで、保護者が見えない、園での子どもの活動を知る機会となります。
また、保護者も保育者に個別で相談できるので、家庭で困ったこと、不安や悩みなどを相談して、保育者と一緒に解決する、という重要なコミュニケーションの場になります。
保育園によって、やり方に差があることがあります。(0〜2歳クラスでは毎日、3歳以降は相談時、など。)
例えば、筆者(保育のカタチ編集部、本記事執筆担当30代)の子どもが通っている園では、ICT化された連絡帳に、毎日連絡事項を記載して、午後に担当の先生から返信が来ます。そして、お迎え時に相談事について先生と話すというサイクルで子どもを一緒に見守っていく体制ができています。
アナログな作業では、なかなか時間のかかる作業となり得るため、ICT化によって効率化できる部分の一つでしょう。
保育日誌の作成
保育日誌は、日々の保育の状況やその日にあった事、園児の様子、保育者の思いなどを記す保育の記録で、毎日発生する事務作業です。
保育計画に対して、日誌は振り返りのツールです。
保育のねらい・計画と共に、保育に欠かせない大切なものです。
保育日誌のねらいは、日々の保育業務を記録することで、課題や問題点を見つけ出すことで、翌日以降の保育計画の改善や、今後の保育方針を決める助けになります。
行事計画の作成
保育園ごとに違いはありますが、クリスマスや遠足、発表会など、さまざまなイベントや行事があります。
行事計画は、子どもにどのような経験をしてもらうかを、「全体的な計画」も踏まえて、目的を考え、具体的な活動内容や保育者の援助内容、スケジュールなど、全体像の見通しをもたせた計画案を作成します。
行事の数だけ作成することになりますので、行事の多い保育園では、作成頻度が高くなります。フォーマットを統一して、すぐに作れるようにしておくことで効率化を図るのも重要です。
保護者へのお知らせ、広報などの作成
園の様子やクラスの様子を広報することも保育士の事務業務の一つです。
例えば、園全体のお知らせや広報と、保健衛生などのお便りなど、分かれて作成されていたり、クラスごとに作成している保育園もあります。
イラストや写真なども使って、分かりやすく保護者にお知らせすることが必要な書類です。
受付対応業務
保育園に来訪する人の対応業務も保育士の業務です。
・送り迎えの保護者対応
・出入りの業者対応
・園見学希望者の対応
・電話対応
・役所や自治体などの対応
など、さまざまな対応業務が発生します。
保育業務と並行して事務業務をどうこなすかが悩み
保育士は日々保育業務を行っています。では、上記の事務作業をいつ行っているのでしょうか。
多くの保育士は、午睡の時間と、お迎えの時間の後に事務業務を行っています。
午睡の時間は約2時間。
この2時間の間に、子どもが起きてしまったらもちろん対応をしますし、細切れの時間しかありませんが、いかにこの時間を有効に活用するか、が悩みどころでもあります。
持ち帰りや残業は当たり前?事務業務を効率化するには
当然、午睡の時間だけでは、保育士の膨大な事務作業を処理し切ることは難しいです。そのため、人手不足の保育園や、業務の効率化が進んでいない保育園では、持ち帰りや残業が常態化してしまいます。
では、どう工夫すれば、保育士の仕事を効率化できるのでしょうか?
効率化の方法をご紹介します。
時間とスケジュールを管理する
まずは自分の事務作業ができる仕事時間を確保しましょう。
今日の予定のどの部分を使って、その時間に何をするのかを明確にすることで、いざ空き時間が来た時に何をすればいいんだっけ?という始めるまでの時間が短縮されます。
また、自分の一つひとつの業務にかかる時間を把握しておくのも重要です。まずは時間内に終わらせる目安を決め、慣れてきたら、より時間を短縮できるように改善していきましょう。
自分のタスクを整理する
保育園では仕事量が多く、今自分が何をしているのか、自分が何をしなければならないのか整理ができていない可能性があります。
まずは自分のタスクを整理して、「見える化」しましょう。
タスクの見える化ができたら、優先順位をつけてPC上のメモや、自分のパソコンがない人は付箋などを活用して一つずつ終わらせていき、完了したらタスクを消して、確認漏れのないようにします。
見える化ができていれば、他の保育士からも業務の進捗が見えやすいので、保育士同士の連携も取りやすくなります。
午睡の時間の有効活用
先ほども書きましたが、保育園の午睡の時間は事務作業のゴールデンタイム。その日に一番重要なことを、午睡の時間にまとめて終わらせてしまいましょう。
細切れ時間にできることは、午睡以外の時間を使って少しずつやることも可能です。
ICT化で効率アップ
近年では、保育業務のICT化も進んでいます。
アナログな作業の多い保育業界ですが、特に時間のかかる事務作業を効率化できることは非常にメリットです。
残業代を支払うよりも、ICTを導入した方がはるかに安くつく場合もあります。
最近ではモバイル端末で作業ができるものも多いので、パソコンが少し苦手、という方も、スマホで入力することでさっと終わらせることができるようになります。
例えば、ICT化が進むと、
・連絡帳
・お便り
・各種記録
・出欠管理
・情報発信
などが保護者がすぐに確認できますし、その他の保育士に必要な業務もシステム上で管理されています。
このようなICT化によって、事務作業を効率化できれば保育士の働き方が変わって余裕ができます。
余裕ができれば、さらに子どもたちと向き合える時間が増え、保育の質も上がるという好循環に入れるかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。保育士は保育業務だけではなく、多くの事務作業を抱えながら勤務しています。
少しでも事務業務の負担が減ることで、保育士の働く環境の改善につながれば幸いです。
事務作業の効率化に悩まれたら、この記事の効率化を試してみてはいかがでしょうか。