はじめに:16年も早く到達した少子化水準
日本の少子化は、政府の想定を遥かに超える速度で進行しています。「少子化はまだ先の話だ」という従来の楽観的な見通しは、2025年の人口動態統計速報値を前に、その根拠を完全に失いました。
厚生労働省の最新速報値を基にした2025年の年間出生数推計は、66.5万人前後となる見通しです。これは、国立社会保障・人口問題研究所が過去に発表した将来推計よりも、実に16年も早く水準を切り下げたことを意味します。
本来であれば2040年代に直面するはずだった市場の縮小が、今まさに足元に到達しているという危機的状況を明確に示しています。
この統計的な急落は、保育・幼児教育市場の構造的変化を決定づけます。「待機児童」という言葉が過去のものとなり、供給過多の市場に突入しました。
今後は、保護者が園を「選別」し、選ばれなかった園から順に静かに定員割れを起こし、最終的に市場から退出していくという「保育全入時代」が本格的に到来します。この時代において、従来の「待っていれば入園児が集まる」という受動的な経営モデルは存続が極めて難しくなります。
この記事では、この不可逆的な市場変化に対応するための、47都道府県別のデータに基づいた具体的な「生存戦略」を、データとロジックに基づいて解説します。
※あくまで出生数は推計値ですので、ご了承ください。
1. 【47都道府県別】2026年市場予測:縮小の「速度」を直視する

以下の表は、最新の確定値に基づき、2025年の減少トレンドを反映させた出生数の予測データです。このデータから読み解くべきは、単なる「少子化」ではなく、地域ごとの「縮小の速度」と「経営の現場で取るべきアクションの優先度」です。
市場縮小の二極化
このデータでは、市場が明確に二極化していることがみてとれます。
- 絶対的減少局面(減少率6%以上)
青森県(▲7.9%)、秋田県(▲9.4%)、山形県(▲8.2%)、新潟県(▲8.1%)、徳島県(▲8.2%)、高知県(▲8.5%)など、減少率が6%を大きく超える地域は、市場規模そのものが急速に失われています。
これらの地域では、数年以内に市場の1割以上が消失するという計算になります。この局面においては、定員を埋めるための競争戦略以前に、園の存在意義を地域社会におけるインフラへと転換するという根本的な「機能転換戦略」が不可欠となります。
- 競争激化局面(減少率3〜5%台)
東京都(▲2.7%)、埼玉県(▲4.1%)、神奈川県(▲4.4%)、愛知県(▲4.4%)、大阪府(▲4.2%)、福岡県(▲4.0%)などの都市圏を含む地域は、絶対的な減少率は緩やかですが、新規開設園の多さや保護者の選択肢の増加により、「需給の逆転」がすでに発生しています。
待機児童数がゼロ、または極めて少数であるにもかかわらず、競合他社との差別化が困難な園は、都市部であっても定員割れのリスクに直面します。この局面では、「自園独自の価値」を言語化し、保護者の選択基準を明確に満たす「攻めの差別化戦略」が生存の鍵となります。
特に秋田県(▲9.4%)、高知県(▲8.5%)、山形県・徳島県(▲8.2%)は、国内最速レベルで市場が縮小しており、従来の経営努力では対応が困難な「存続の危機」にあります。一方で、東京都は減少率が緩やか(▲2.7%)ですが、待機児童数が298人と依然として多く、都市部特有の激しい競争状態が継続しています。
| 都道府県 | 2025年出生数(推計) | 減少率(前年比) | 待機児童数(R7) |
| 北海道 | 26,500 | ▲5.8% | 21 |
| 青森県 | 5,200 | ▲7.9% | 0 |
| 岩手県 | 5,100 | ▲7.3% | 0 |
| 宮城県 | 11,000 | ▲6.9% | 8 |
| 秋田県 | 3,100 | ▲9.4% | 0 |
| 山形県 | 4,600 | ▲8.2% | 0 |
| 福島県 | 8,200 | ▲7.2% | 0 |
| 茨城県 | 14,500 | ▲5.3% | 0 |
| 栃木県 | 10,000 | ▲6.1% | 0 |
| 群馬県 | 9,600 | ▲6.2% | 0 |
| 埼玉県 | 39,500 | ▲4.1% | 53 |
| 千葉県 | 33,500 | ▲4.4% | 45 |
| 東京都 | 84,000 | ▲2.7% | 298 |
| 神奈川県 | 51,500 | ▲4.4% | 18 |
| 新潟県 | 10,200 | ▲8.1% | 0 |
| 富山県 | 5,200 | ▲6.6% | 0 |
| 石川県 | 6,100 | ▲7.0% | 0 |
| 福井県 | 4,300 | ▲7.9% | 0 |
| 山梨県 | 4,400 | ▲7.1% | 0 |
| 長野県 | 10,300 | ▲7.4% | 0 |
| 岐阜県 | 10,100 | ▲6.0% | 0 |
| 静岡県 | 18,300 | ▲5.7% | 2 |
| 愛知県 | 45,900 | ▲4.4% | 0 |
| 三重県 | 9,600 | ▲6.1% | 72 |
| 滋賀県 | 8,700 | ▲4.1% | 184 |
| 京都府 | 13,500 | ▲5.2% | 0 |
| 大阪府 | 53,800 | ▲4.2% | 28 |
| 兵庫県 | 30,400 | ▲4.7% | 121 |
| 奈良県 | 6,700 | ▲5.7% | 18 |
| 和歌山県 | 4,900 | ▲7.0% | 0 |
| 鳥取県 | 3,100 | ▲7.8% | 0 |
| 島根県 | 3,800 | ▲6.2% | 14 |
| 岡山県 | 11,500 | ▲5.6% | 0 |
| 広島県 | 16,500 | ▲5.6% | 0 |
| 山口県 | 6,900 | ▲8.0% | 12 |
| 徳島県 | 3,600 | ▲8.2% | 0 |
| 香川県 | 5,300 | ▲7.7% | 0 |
| 愛媛県 | 7,000 | ▲6.6% | 0 |
| 高知県 | 3,300 | ▲8.5% | 0 |
| 福岡県 | 32,300 | ▲4.0% | 0 |
| 佐賀県 | 5,200 | ▲7.4% | 0 |
| 長崎県 | 7,000 | ▲7.4% | 0 |
| 熊本県 | 11,100 | ▲6.0% | 0 |
| 大分県 | 6,600 | ▲6.6% | 0 |
| 宮崎県 | 6,700 | ▲6.9% | 0 |
| 鹿児島県 | 9,600 | ▲6.5% | 3 |
| 沖縄県 | 12,900 | ▲3.6% | 56 |
データ分析に基づく結論
このデータからわかることは、「なんとなく運営していても定員が埋まる」時代が終わりに近づいた、ということです。すでに実感として持たれている方もいらっしゃると思います。2026年は、幼保施設経営における「勝ち残り」と「淘汰」の二極化がさらに進む年となりそうです。地域ごとの減少速度を無視した経営判断は、致命的なリスクとなりえます。
2. 人口動態が突きつける「選ばれる園」への生存戦略

市場の構造的変化に対応するため、戦略は都市部と地方・農村部で明確に分離する必要があります。
① 都市部:施設スペックから「体験価値」の競争へ
東京、大阪、名古屋、福岡などの都市部では、絶対的な出生数の減少率は地方と比較して緩やかですが、新規園の開設数が高水準で推移した結果、「需給の逆転」はすでに顕在化しています。
例えば、愛知県の、ある大規模企業主導型保育園に直接お話を伺ったところによると、0歳児の定員充足率は7割程度とということでした。
- 現状の落とし穴: 保護者は、まず立地や設備の良さをチェックしますが、これは資金力のある大手チェーンや大規模法人にとって模倣が容易な競争要因に過ぎません。立地や設備の競争で優位に立つことは、既存園にとって極めて困難です。
- 生存戦略: 「パーパス経営」による共感の獲得
都市部の競争激化局面で選ばれる唯一の要因は、「その園でしか得られない保育体験」と、それを支える「経営理念への共感」です。これを実現するのが「パーパス経営」です。
- パーパス(存在意義)の定義:
- 単なる「安全・安心」や「豊かな人間性の育成」といった抽象的な目標ではなく、「うちは何を最も大切にし、その保育を通じて子どもたちにどんな未来を贈りたいのか」という理念を具体的に言語化し、職員全員が行動の拠り所とすることが必要です。
- 例:「私たちは、変化の激しい未来を生き抜く『非認知能力』の育成を最優先する」「私たちは、園での体験を通して『自己肯定感』を育む保育園である」など、具体的な教育方針を明確にします。
- ストーリーとしての発信:
- 理念は掲げるだけでなく、日々の保育実践を裏付けとする「物語(ストーリー)」として発信することで初めて保護者に伝わります。
- 例:なぜ今日の活動を選んだのか、その活動が子どものどの能力を育成するのか、保護者の懸念に対して園がどのような意図を持って対応しているのかを具体的に伝えることで、「施設」を借りるのではなく、「育児のパートナー」を選びにきている保護者のニーズに応えます。

② 地方・農村部:保育所から「地域の心臓」へ
減少率が6%を超えるような「絶対的減少局面」にある地方・農村部では、市場規模の絶対量が急速に縮小しています。この状況では、既存の枠組みでの競争は意味を成しません。
- 現状の落とし穴: 「入園児を待つ」という従来の受動的な姿勢では、分母となる母数そのものが不足しているため、打つ手がなくなります。現在の入園児が年長として卒園した後の市場(3年後の入園児)は、すでに2割近く消失しているという現実を直視する必要があります。
- 生存戦略: 未就園児へのアプローチと「多機能化」による地域インフラ化
地方で園が存続する唯一の回避策は、保育の対象を「入園済みの0〜5歳児」に限定せず、「地域全体の子育て世帯、およびその予備軍」へと拡大し、園を地域の社会インフラへと転換することです。
- 多機能化の具体例:
- 未就園児へのアプローチ: 一時預かり、子育て相談、育児支援講座、地域のコミュニティスペースとしての園庭開放など、入園前から親子と継続的な接点を持つことで、保護者の心理的ハードルを下げ、事実上の「囲い込み」を行います。
- 地域ニーズへの対応: 学童保育、高齢者との世代間交流拠点、災害時の避難所としての機能強化など、「保育+α」の付加価値を提供することで、自治体・地域住民にとって不可欠な存在となり、地域社会における存続の正当性を確立します。
「この地域で子育てをするなら、あの園があるから安心だ」という、心理的なインフラ(地域の心臓)を目指す経営判断が、市場の絶対的減少に抗う唯一の道筋です。
地方で子どもの数が減少していても決して諦めないでください。園の特徴、現在行っている取り組み、など、園の情報を入園検討中の保護者に対してしっかりと発信することで、園児の定員状況や、採用面での改善が期待できます。
3. 経営判断のための3つのポイント

「どうしていいか分からない」と立ち止まることこそが、この市場環境下における経営のリスクになります。経営陣が取り組むべき、具体的かつ数値に基づいた3つのステップをご紹介します。
ステップ1:5年後の「自園の未来図」を数字で描く
危機感の共有と戦略的な目標設定の第一歩は、感情論を排した「数字による現実の直視」です。
- 現実的な数字の算出:
- 今回の表にある自地域の「減少率」(例:千葉県の▲4.4%)を、自園の昨年度の入園児数(例:全園児数100人)に単純に当てはめてみてください。
- 「毎年4〜5人ずつ自動的に減り、3年後には12〜15人の空きが出る」という現実的な数字を算出し、これを経営層だけでなく、全職員で共有する必要があります。
- 目標への転換:
- この数字は、「どれだけ頑張ればいいか」の具体的な目標値にもなります。年間で確保すべき園児数など、具体的な目標(KPI)を数値で定めることで、組織全体の行動変容を促します。経営に関与していない職員にも、検討中の親御さんに良い園だと思ってもらうにはどのような取り組みをしたらよいと思う?と、定員充足のための視点を共有することが重要です。
- 「なんとなく頑張る」から「目標を達成するために戦略的に行動する」というマインドセットへの転換を、数字が牽引します。
ステップ2:保護者の忙しい状況に寄り添うためのICT化の実行
現代の保護者世代、特に都市部の共働き世帯にとっての選択基準は、「時間の効率(タイムパフォーマンス、タイパ)」と「手間の削減(コストパフォーマンス、コスパ)」が極めて重要です。紙の連絡帳、現金徴収、園からの一方的な通達は、「選ばない理由」として保護者に認識されます。一度入園しても安心はできません。通わせてみたら思っていたのと違った、は保護者の転園に繋がります。
- DXの目的を再定義する:
- ICTの導入は、単に「職員の業務効率化」だけが目的ではありません。真の目的は、保護者の手間を徹底的に省き、利便性を最大化することです。
- 園からの連絡や手続きがデジタルで手間なく行えることで、「この園は私たちの忙しさを理解してくれている」という安心感、すなわちCX(カスタマー・エクスペリエンス、顧客体験)を高めるための、最優先の投資であると位置づける必要があります。
- また、園の経営面でもメリットがあります。行政は加算の要件にICTシステムの導入を盛り込んでいます。これは、行政からのICTに対する取り組みを促進するメッセージでもあります。つまり、本質的には、子どもたちと、働く保護者に優しい園を優遇しますよ、という保育園生き残りに対する行政からの回答でもあります。
- 具体的な導入項目:
- 連絡帳のアプリ化、登降園管理のデジタル化、各種集金・支払いのオンライン化、緊急連絡の一斉配信システムなどが挙げられます。これらは、今や先進的な取り組みではなく、保護者に選ばれるための最低限の経営インフラとなりつつあります。
- 保育DXはもう必須!ICTシステム導入で保育の質を向上させるポイント
ステップ3:ホームページの「3秒の壁」を突破する
保護者が園のウェブサイトを開いてから、その園の価値を判断するまでの時間はわずか3秒と言われています。この3秒間に、園のウェブサイトは「選ばれる理由」を明確に提示できなければ、すぐに離脱されます。
- 価値の言語化と可視化:
- 「安全・安心」は全ての園にとって提供されるべきベースラインであり、差別化要因にはなりません。
- ウェブサイトで最初に表示される部分に、その園ならではの「強み」を具体的かつ簡潔に配置する必要があります。
- 提示すべき3つの核となる情報:
- 独自の教育的価値: 「○○に強い」「地域最古の歴史と伝統に基づく教育を提供する」など、他園にはないカリキュラムや哲学。
- 職員の専門性: 「全職員がモンテッソーリ資格を持つ」「スタッフの離職率が業界平均より低い」など、人的資源の専門性の高さ。
- 保護者利便性の保証: 「連絡は全てアプリで完結」「延長保育の柔軟な対応」など、DXによる保護者体験の向上への取り組み。
- 伝わりにくい魅力を言語化し、論理的かつ視覚的に訴求するマーケティング戦略が、全入時代における園児募集の要となります。もちろん、保育園はサービス業ではありません、という意見があるのは承知していますし、気持ちもわかりますが、保護者が園を選ぶ時代になってきた以上、ニーズを無視することはできません。
核家族化、IT化によって、保護者が身近な集団から情報を得る機会がどんどんと減って、良い情報は自ら発信しなければ保護者のもとに届かない時代に変わっています。どんなに良い保育をしていても、保護者に知られていない、また寄り添えていなければ、選ばれない園になってしまい、運営が続かないのです。

結論:少子化に負けない、選ばれる園をつくる
少子化による市場の縮小は、多くの経営者にとって危機的状況です。しかし、視点を転換すれば、これは「なんとなく運営していた園」が淘汰され、真に保育の質を磨き、地域社会に愛される園へと生まれ変わるための構造的な機会でもあります。
幼保施設の経営者や運営責任者は、さまざまなデータに経験を加味して、自園の特性に合った戦略を冷静に実行に移せるかどうか、が今後の生き残りのカギと言えます。
ぜひこの記事で提示した、
- 市場縮小の速度を数値で把握し、自園の状況と照らし合わせる
- 都市部であれば「パーパス経営」などによる園への共感の獲得
- 地方であれば「多機能化」による地域インフラへの転換
上記のようなものを含め、自園の今後の運営戦略を検討してみてください。未来の子どもたちの笑顔、そして今まで大切にしてきた園を存続させられるのは、このデータを直視し、迅速に行動を開始することができるかにかかっています。
もっと子どもたちの未来に集中するために:保育のカタチのサービス
保育のカタチは、少しでもこの状況を改善したい、と思っている経営者の皆様にお役に立てる情報を発信しています。
さまざまな幼保施設と接する中で得た事例や知見、情報をご紹介いたします。
・今こんなことで悩んでいる
・やろうとは思ってるんだけど、なかなか時間や人手が取れない
・どうやって始めたらいいんだろう
些細なご質問や疑問でも丁寧にお話を伺いますので、ぜひお気軽にご相談ください。
\自園と相性のよい人材が長く働いてくれる、保育のカタチの採用支援/












