保育施設において業務のICT化は、業務効率の向上はもちろん、保護者とのスムーズな連絡方法を整備するうえでも有効です。子どもたちの登降園管理や事務作業をデジタル化することで、保育士の負担が軽減され、より質の高い保育時間を確保できるようになります。同時に、園児や保護者に関する個人情報を適切に保護することが求められるため、セキュリティの強化も重要な課題となっています。
ICTの導入によって記録やデータの入力が自動化されれば、作業時間の短縮だけでなく、ヒューマンエラーの軽減にもつながります。一方で、ネットワークを通じた情報のやり取りが増加する分、サイバー攻撃や不正アクセスのリスクにも注意を払わなければなりません。園児の安全や保護者の安心を守るためにも、ICT導入と同時に堅固な情報セキュリティ対策の実施が不可欠です。
本記事では、保育施設におけるICT活用のメリットや導入の注意点とともに、情報セキュリティ対策の基本から具体的な導入ステップまでを分かりやすく解説します。ICT化の概要やIoTとの違い、さらに補助金を活用して導入コストを抑える方法など、知っておきたいポイントを網羅しています。保育品質の向上と安全な運営を両立するためのヒントになれば幸いです。
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保育ICTとは?IT・IoTとの違い

保育ICTを導入するにあたり、まずはICTの定義やIT・IoTとの相違点を正しく理解しておくことが重要です。
ICTは、情報通信技術を用いて人と人をつなぎ、スムーズに情報を共有・活用するための仕組みを包括的に指す言葉です。保育現場の場合、保育士同士や保護者との連絡、園児情報の管理など、多方面でICTの恩恵を受けられます。オンライン伝達やデータベース管理の効率化、コミュニケーションプラットフォームの活用などがその一例で、現代の保育には欠かせない技術要素と言えます。
ICTとITの違い
ITは情報技術を指し、ソフトウェアやハードウェア、ネットワークなどの技術的な側面に重点があります。一方でICTは、ITの技術に加えて、コミュニケーションを円滑にする仕組みにも重きを置いている点が特徴です。保育園や幼稚園では、IT技術の導入だけでなく、職員や保護者の間で情報が円滑にやりとりされる環境整備が欠かせないため、より広い概念であるICTが重要となります。
ICTとIoTの違い
IoTは、インターネットを通じてモノとモノ、またはモノと人が情報をやり取りする技術です。保育分野では、午睡センサーや監視カメラなどがIoT機器の代表例で、園児の状態をリアルタイムで把握することに役立ちます。一方のICTは、施設内外でのコミュニケーションを総合的にカバーし、保育士や保護者間の情報交換を含めた広範な情報通信技術を指します。
保育ICT導入が求められる背景
行政からの業務効率化推進や、保護者ニーズの多様化などにより、保育現場にはICTの積極的な活用が期待されています。
少子化や保育士不足が進む中、保育士が担う業務の効率化は急務となっています。ペーパーベースの記録管理では、膨大な書類の整理や情報検索に時間がかかり、保育そのものに集中しづらいという課題がありました。ICT導入によりこれらのプロセスを自動化・省力化することで、働く人たちの負担を軽減し、結果として保育の質向上が期待されています。
保育施設における情報セキュリティの3要素
ICTを導入する上で、情報資産を守るうえで欠かせない基本概念が情報セキュリティの3要素です。
保育施設では、園児や保護者の個人情報、さらには職員の勤怠情報や緊急連絡先など、重要なデータを多く取り扱います。こうした情報を誤って流出させたり、意図しない改ざんが起こった場合、施設の信用や安全性が大きく損なわれるリスクがあるため、セキュリティ対策の基本知識が不可欠です。
機密性(Confidentiality)
機密性とは、特定の情報にアクセスできる人を適切に限定し、関係のない第三者からの不正ログインやのぞき見を防ぐことです。保育施設では、職員ごとにアクセス権限を設定し、デジタル上のファイルやデータを安全に管理する仕組みが重要となります。個人情報を保護することで、保育施設の信頼度が高まり、保護者との信頼関係を維持しやすくなります。
完全性(Integrity)
完全性とは、情報を正確な状態に保ち、不正な改ざんや誤った更新を防ぐ概念です。例えば、園児のアレルギー情報が何らかのトラブルで書き換えられると、園児の健康に大きな影響を及ぼす可能性があります。日々の記録やデータの入力は正しく行われているか、定期的な検証とシステム上での改ざん防止策により、保育現場の安全性を高めることができます。
可用性(Availability)
可用性とは、必要なときに必要な情報にアクセスできる状態を維持することです。システムダウンやネットワーク障害が発生すると、登降園情報や保護者連絡機能が使用できず、保育現場に混乱を招く恐れがあります。バックアップ環境や予備システムを整備することで、不測の事態にも迅速に対応できる可用性の確保を図ることが重要です。
保育ICT導入による主要なセキュリティ対策
保育施設でICTを活用する際には、具体的なセキュリティ対策を講じることが必要不可欠です。
システムを導入するだけでは十分とは言えず、日常的な運用の中でセキュリティリスクに対処する仕組みづくりが求められます。個人情報の取り扱い方針や職員教育、定期的なパスワード変更等のルールを定めることによって、安全でスムーズなICT活用を実現することが可能です。
不正アクセス防止(アクセス制御・IP制限)
アクセス制御やIP制限を設けることで、正規の利用者だけがシステムに入れる環境を整えます。例えば、職員ごとのアカウント発行や、特定の端末・ネットワークからのみログイン可能にする手段は効果的です。こうした対策により、第三者の不正ログインや情報盗難を大きく抑制できます。
データの漏えい対策(暗号化・ID管理)
データを暗号化しておけば、万が一データが外部に渡った場合でも、内容が読み取られるリスクを軽減できます。また、誰がいつどの情報にアクセスしたかを記録するID管理の仕組みは、漏えいがあった場合の追跡を可能にします。これらの対策は、保育施設内でやり取りする個人情報を安全に守る上で欠かせないアプローチです。
操作ミスやシステム障害への備え(バックアップ・復旧対応)
データの誤操作による消去や、システム障害による情報の消失を防ぐためには、定期的なバックアップが重要です。バックアップにはオンサイト・オフサイト両方を検討し、災害や故障のリスクにも備えると安心です。復旧手順のマニュアルを整備しておくことで、万が一のトラブル発生時に迅速に対応でき、運営への影響を最小限に抑えられます。
保育ICT導入のメリット

導入による恩恵は多岐にわたり、保育の質や現場の働きやすさを大きく向上させます。
ICTを導入することで、保育士が事務作業に費やす時間を削減し、子どもたちと過ごす時間をより多く確保できます。また、保護者との連絡もスムーズになり、大切な連絡事項をもれなく共有できる点は、保育施設としての信頼性をさらに高める要因となるでしょう。
事務作業の効率化と保育士の負担軽減
勤怠管理や各種届出書類の作成など、多くの事務作業をシステム化することで、時間と労力を削減できます。書類の整理から解放されることで、保育士が園児一人ひとりのケアや教育活動に専念しやすくなります。結果的に、保育の質が高まり、職員満足度の向上にも貢献します。
保護者とのコミュニケーション向上
連絡アプリやウェブ上でのお知らせ配信を導入することで、保護者とのやり取りが迅速かつ正確になります。紙の連絡帳では情報が埋もれがちですが、ICTを活用すれば重要な連絡事項を見逃すリスクが減少します。保護者にとっても利便性が高まり、施設への信頼感が一層高まるでしょう。
園児の安全管理と事故防止
登降園記録や午睡センサーなど、ICT機器を活用すれば、園児の状況をリアルタイムに把握できます。迅速な対応が必要となる場面でも、ツールを通じて職員同士が即時に情報共有できる点は大きな利点です。子どもの安全を第一に考える保育施設にとって、事故防止や緊急対策の面でのICT活用は大きな価値があります。
コスト削減と園運営の最適化
電子データ化することで紙や印刷の使用量が減り、日々の運営コストを削減できます。さらに、勤怠管理やシフト作成の自動化により、管理業務にかかる時間を減らし、他の重要なタスクに振り向けられる余地が生まれます。無駄を省いた運営体制を構築すれば、職場環境の改善と長期的な経費削減を同時に狙うことができます。
保育ICT導入のデメリット・注意点
メリットが多い一方、コスト面や職員のITリテラシーなど、導入にあたっての留意点も押さえておく必要があります。
ICT導入はあくまで手段であり、保育そのものに直接関わる人間のスキルと連携があってこそ活かされます。システム障害や初期コストなど、導入には潜在的なリスクもあるため、丁寧な準備と教育が重要です。
導入コストとシステム維持費用
ハードウェアやソフトウェアの購入費、システムのVPNやクラウド利用料など、初期コストだけでなく月々の維持費も考慮しなければなりません。長期的にどの程度の出費が必要となるのか試算し、予算に合ったシステムを選ぶことが大切です。補助金の活用や分割導入など、費用軽減の手段を検討することで負担を抑えることができます。
職員のITリテラシー向上が必要
ICTを使いこなすためには、職員一人ひとりのITスキルが一定水準以上であることが望ましいです。定期的な研修やマニュアル整備を行い、困ったときに相談できる体制を整えておくと導入がスムーズになります。使い方をしっかり共有すれば、現場での混乱や抵抗感も少なく、効果的にICTを活用できます。
システム障害やトラブル時のリスク
インターネット回線やサーバーがダウンした場合、日常業務に支障が出てしまう可能性があります。障害発生に備えてオフラインでも最低限利用できる仕組みや、迅速に復旧できるサポート体制があるかを確認しておくと安心です。運用面だけでなく、トラブル発生時の情報共有方法もあらかじめ決めておくことが大切です。
保護者の理解と協力を得るためのポイント
新しいシステムの導入に対して、不安を感じる保護者も少なくありません。導入目的やメリット、安全対策を明確に説明することで、安心して協力してもらえるようになります。利用者である保護者の要望を取り入れながらコミュニケーションを重ねることで、より円滑なICT導入が実現できるでしょう。
保育ICTの導入ステップと補助金活用
実際の導入にあたっては、明確な目的設定から補助金活用まで、一連の流れを把握しておくとスムーズです。
保育ICTを導入する際は、コスト面と運用面の両方で計画的に進める必要があります。目的や期待効果をはっきりさせたうえで、最適なシステムを選定し、補助金の活用を含めた資金計画を立てることで導入失敗を防げます。
導入目的の明確化
まずは何を改善したいのかを明確にすることで、必要な機能や導入予算の目安を立てやすくなります。例えば、園児管理の一元化や保護者連絡の迅速化など、具体的な目標を設定すると導入効果を測定しやすくなります。導入後の運用イメージを共有することが、職員や保護者の理解を得る鍵となります。
システム選定と比較検討
必要な機能やセキュリティ要件、操作性を踏まえて、複数のICTシステムを比較検討します。導入後のサポート体制やアップデートの頻度、ユーザー数に応じたコスト変動も確認しましょう。あらかじめ導入規模を想定し、将来的な拡張にも柔軟に対応できるシステムを選ぶことが大切です。
補助金の確認と申請手順
自治体によっては、保育ICT導入に対する補助金や助成金を設けているところがあります。募集要項や申請期限をしっかり確認し、必要書類を漏れなく整えて手続きを進めましょう。補助金の活用で、初期費用の負担を軽減できる可能性があるため、情報収集を欠かさないようにしましょう。
小規模導入から段階的運用へ
いきなり全面的にICT化を行うのではなく、試験的に小規模な範囲から導入し、実際の運用を通じて課題や改善策を見極めるアプローチも効果的です。職員がシステムに慣れるまでの調整期間を設けることで、トラブルや戸惑いを最小限に抑えられます。段階的に導入を進めながら徐々にカバー範囲を広げていくと、混乱を起こさず成果を得やすくなります。
導入事例:保育ICTでセキュリティと効率化を両立

実際にICT化を進めている園での取り組み事例を紹介します。
他の施設ではどのようにICTを活用しているのか、具体的な成功事例を知ることは大きな参考になります。セキュリティ対策を強化しながら業務をスピードアップし、保護者や園児に安心を与える運営が可能になる例を見ていきましょう。
監視カメラ設置とデジタル運用
施設内に監視カメラを設置し、その映像データをクラウドや専用サーバーで管理している園があります。防犯目的だけでなく、保育士の動線を客観的に確認し、業務改善に役立てるなど多角的な活用が可能です。デジタル化により映像検索やアーカイブ作業が効率化され、安全確保と業務効率の向上を同時に実現しています。
午睡センサー導入による事故防止
午睡時の見守りを自動化するセンサーを導入している施設では、突然の体調不良などを早期発見できます。保育士が定期的に巡回するだけでは見逃しかねない変化を、センサーがアラートで即時に知らせるという仕組みです。職員の業務負担を軽減しながら、事故や緊急事態を未然に防ぐ効果が高まっています。
登降園管理のICT化と保護者アプリの活用
登降園時にICカードやアプリから打刻できるシステムを採用し、保護者にもアプリで日々の園での様子や連絡事項を確認してもらう園があります。正確な登降園情報がリアルタイムに集計され、遅刻や欠席の把握も容易となります。保護者が手間なく園の情報を受け取れるため、双方向のコミュニケーションがより活発になり、保育士と保護者双方にメリットをもたらしています。
まとめ
保育施設のICT導入は、業務の効率化や情報セキュリティ強化に大きく寄与します。安全管理と運営効率を高めるため、メリット・デメリットを理解しながら段階的に導入を進めましょう。
ICTシステムの活用は、保育士の業務負担を軽減し、園児一人ひとりに目を向ける余裕をつくり出します。一方で、導入費用やシステム障害への対策、職員のITリテラシー向上といった課題にも備える必要があります。導入目的をはっきりさせ、適切なシステム選定とサポート体制の確立、さらに保護者への丁寧な説明を行うことで、保育ICTの導入は園児と保護者、職員全員にとってより良い保育環境をもたらすでしょう。
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