3分でわかるこの記事のポイント
- 【現金給付】 子育て世帯に対し、こども1人あたり一律2万円の「物価高対応子育て応援手当」を支給。原則プッシュ型で迅速な支援を目指す。
- 【若者・婚活支援】 プレコンセプションケア(将来の妊娠・出産へのヘルスケア)や卵子凍結の調査研究、結婚新生活支援など、若年層のライフデザイン支援を強化。
- 【保育の質・処遇】 国家公務員給与改定に準じた保育士等の処遇改善(4月遡及)に加え、物価高騰に対応する運営継続支援のための臨時加算を創設。
- 【安全・安心】 日本版DBS(こども性暴力防止法)の施行準備や、SNSを活用した虐待相談、児童相談所と警察の情報連携システムの構築など、セーフティネットをDXで強化。
- 【共生社会】 医療的ケア児や障害児支援におけるICT化、インクルージョン推進、こどもホスピス支援など、多様なニーズに応える受け皿整備を加速。
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はじめに:社会全体で「こどもまんなか」を支えるフェーズへ

2025年(令和7年)12月、こども家庭庁より「令和7年度補正予算案」の概要が公表されました。長引く物価高騰や深刻化する少子化、そして多様化する家族のあり方に対応するため、今回の補正予算は単なる「救済策」にとどまらず、社会構造の変革を見据えた意欲的な内容となっています。
特に注目すべきは、これまで手薄になりがちだった「若者・単身者」へのアプローチや、保育所・児童館といった既存インフラの多機能化、そしてデジタル技術(DX)を駆使したセーフティネットの構築です。
本記事では、膨大な予算資料の中から、保育・福祉事業者が知っておくべき社会全体の動きと、今後の政策トレンドを5つの柱に分けて詳細に解説します。
1. 物価高対応:子育て世帯への強力な経済支援
今回の補正予算で最も生活者の関心が高いのが、物価高騰に対する直接的な家計支援です。食費や光熱費の上昇が子育て世帯の家計を直撃している現状を踏まえ、即効性のある現金給付が盛り込まれました。
① 物価高対応子育て応援手当
政府は、物価高の影響を特に強く受けている子育て世帯を支援するため、大規模な給付を実施します。
- 支給対象: 0歳から高校生年代までの児童(令和7年9月30日時点の児童手当支給対象児童)。また、令和7年10月から令和8年3月末までに生まれる新生児も対象となります。
- 給付額: 対象児童1人あたり 一律2万円。
- 支給方式: スピードを重視し、原則として**「プッシュ型」**を採用します。児童手当の受給口座情報を活用し、申請不要で振り込まれる仕組みです(公務員等、一部データ連携が必要な場合を除く)。
- 予算規模: 約3,677億円(事務費含む)という巨額の予算が計上されており、政府の本気度がうかがえます。
保育園やこども園においては、保護者から「いつ支給されるのか」「申請は必要なのか」といった問い合わせが増えることが予想されます。「基本は申請不要」という点をアナウンスすることで、保護者の安心感につながるでしょう。
② ひとり親家庭等への重点支援
経済的に厳しい状況に置かれやすいひとり親家庭に対しては、現金給付だけでなく、生活基盤を支えるための支援が手厚く用意されています。
- 相談支援体制の強化: 「物価高対応集中相談事業」として、役所だけでなく地域の身近な場所やオンラインでの相談窓口を設置。2億円の予算を投じ、生活費や家計相談、各種申請サポート(伴走型支援)を行います。
- 食事等支援事業: こども食堂、こども宅食、フードパントリーを行う事業者に対し、中間支援法人を通じて運営支援を行います。予算は15億円。単に食料を配るだけでなく、そこから「要支援児童の早期発見」につなげる見守り機能としての役割も期待されています。
2. 若者・ライフデザイン支援:将来への不安を解消する

「異次元の少子化対策」の一環として、結婚や妊娠・出産を考える前の段階、すなわち「若者世代(プレコンセプション期)」への支援が大幅に拡充されています。
① プレコンセプションケアの普及
「プレコンセプションケア」とは、将来の妊娠を考えながら、女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うことです。
今回、3億円の予算を投じ、自治体や企業で正しい知識を啓発する「プレコンサポーター」の養成研修や、自治体向けのモデル事業を実施します。若いうちから性や健康に関する正しい知識を持つことで、将来の不妊リスク低減や、ライフプランの具体化を促す狙いです。
② 卵子凍結による妊孕(にんよう)性温存のモデル事業
晩婚化・晩産化が進む中、健康な女性が将来の妊娠に備えて卵子を凍結する「社会的適応」のニーズが高まっています。しかし、医学的な有効性やリスクについてのデータはまだ十分ではありません。
そこで、10億円を投じて都道府県主導のモデル事業を実施します。
- 内容: 卵子凍結に関する正しい知識の普及啓発(講習会等)を必須とした上で、卵子凍結や凍結卵子を用いた生殖補助医療にかかる費用を助成します。
- 目的: 単なる助成ではなく、データを収集し、将来的なガイドライン作成や医学的適応の範囲検討に活かす「実証事業」としての側面が強い施策です。
③ 結婚・新生活への支援
地域少子化対策重点推進交付金(77億円)を活用し、結婚に伴う経済的負担を軽減します。
- 結婚新生活支援: 新婚世帯の家賃や引越し費用を補助。夫婦共に29歳以下の場合は最大60万円、39歳以下の場合は30万円を上限に交付します。
- 要件: ライフデザイン支援講座やプレコンセプションケア講座の受講を要件とすることで、経済支援と意識啓発をセットで行う点が特徴です。
3. 多様で質の高い成育環境の整備

こどもたちが一日の大半を過ごす保育所や学校、放課後の居場所についての環境整備も進められます。
① 企業主導による「小学生の預かり」モデル事業
「小1の壁」や放課後児童クラブの待機児童問題に対し、企業の力を活用する新たなアプローチです。
- 概要: 企業主導型保育所や学習塾、スポーツクラブの空きスペースなどを活用し、小学生の居場所を確保します。
- 特徴: 不登校や障害児など多様なニーズに対応するケースや、体験活動を付加した高付加価値な預かりなど、民間ならではの創意工夫を凝らしたモデルを実証します(予算10億円)。
② 「はじめの100か月の育ちビジョン」の推進
妊娠期から小学校入学前までの約100か月(約8年)は、こどもの脳や身体の発達にとって極めて重要な時期です。この期間の育ちを社会全体で保障するため、1.6億円を計上して普及啓発や地域コーディネーターの養成を行います。幼児教育と小学校教育の円滑な接続(保幼小連携)の基盤となる重要な概念です。
③ 日本版DBS(こども性暴力防止法)の施行準備
こどもを性犯罪から守る仕組み「日本版DBS」がいよいよ動き出します。令和8年12月の施行に向け、システム開発に30億円、広報啓発や事務体制の整備に7億円が計上されました。
保育所や学校だけでなく、学習塾やスポーツクラブなど、こどもと接する業務を行う事業者は、従業員の性犯罪歴確認が義務化または認定制度化されます。事業者の事務負担を減らしつつ、確実な運用を行うためのシステム構築が急ピッチで進められます。
4. 困難を抱えるこども・若者へのセーフティネット
虐待、貧困、ヤングケアラー、不登校など、困難な状況にあるこどもたちを見逃さず、切れ目なく支援するためのネットワーク構築に予算が重点配分されています。
① 児童相談所と警察の連携強化(システム構築)
痛ましい虐待死事件を防ぐため、児童相談所と警察の情報共有をデジタル化します。
- 現状: 電話や書面での照会が主で、タイムラグや情報共有漏れのリスクがありました。
- 今後: 警察署に児童相談システム端末を配備し、虐待事案に関する情報をリアルタイムで共有できるシステムを構築します(予算1.1億円)。これにより、緊急時の迅速な保護や介入が可能になります。
② こどもの自殺対策と法定協議会
こどもの自殺者数が高止まりする中、改正自殺対策基本法に基づき、自治体による「協議会」の設置が進められます。
学校、警察、医療機関、そしてNPO等の民間団体が連携し、自殺リスクのあるこども(未遂者含む)に対して、24時間365日の即応体制や居場所(フリースペース)の提供を行うモデル事業を実施します。
③ ヤングケアラーへの「食支援」を通じたアウトリーチ
家族の世話を担うヤングケアラーは、家庭内に他人が入ることを拒む傾向があり、支援が届きにくい課題があります。
そこで、民間企業等が「食支援(お弁当や食材の配送)」を入り口として家庭と接点を持ち、こどもの状況把握や信頼関係の構築を行う事業に対し、配送費等を補助します。
5. DXと持続可能な制度設計

人口減少社会において、質の高い支援を維持・継続するためには、デジタル技術(DX)の活用が不可欠です。
① 母子保健情報のデジタル化(PMH)
マイナンバーカードと母子健康手帳を連携させ、健診受診券のデジタル化や問診票のスマホ入力などを実現する「母子保健DX」を推進します。
自治体や医療機関の事務負担を大幅に減らすとともに、転居時のデータ引継ぎや、里帰り出産時の手続き簡素化など、利用者メリットの大きい施策です。
② こどもデータ連携基盤の構築
教育、福祉、医療など、分野ごとにバラバラに管理されているこどものデータを紐づけ、支援が必要なこどもを早期に発見するための「データ連携基盤」の調査研究を行います。
例えば、「健診未受診」かつ「学校を欠席がち」といったデータを掛け合わせることで、虐待リスクの高い家庭をアラート検知し、プッシュ型で支援を届けることが可能になります。
まとめ:制度の「隙間」を埋め、社会全体で支える
令和7年度補正予算案は、物価高という喫緊の課題に対応しつつ、従来の縦割り行政ではこぼれ落ちていた「制度の狭間」を埋めるための施策が数多く盛り込まれています。
保育・子育て支援事業者にとっては、単に施設内でこどもを預かるだけでなく、地域のNPOや企業、行政と連携し、地域全体でこどもを支えるプラットフォームとしての役割が求められるようになります。
また、DX関連の補助金やモデル事業も豊富に用意されているため、これらを活用して業務効率化と支援の質向上を同時に進めることが、今後の経営の鍵となるでしょう。
\自園と相性のよい人材が長く働いてくれる、保育のカタチの採用支援/













