2026年(令和8年)12月25日より、「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(通称:こども性暴力防止法、日本版DBS)が施行されます。
この法律により、認可保育園をはじめとする児童福祉施設では、職員に対する「特定性犯罪前科の有無の確認」などの安全確保措置が法律上の義務となります。これに伴い、保育園の労務管理の根幹である「就業規則」も、新法に適合した内容へとアップデートすることが不可欠です。
本記事では、一般的な認可保育園の就業規則をベースに、日本版DBS施行に向けて追加・変更すべき具体的な条文例と、実務上の注意点を徹底解説します。
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3分でわかるこの記事の内容
- 2026年末から義務化: 「日本版DBS」施行により、認可保育園等は職員に対する性犯罪歴の確認(照会)が法律で義務付けられます。
- 就業規則の改定が急務: 制度開始に備え、採用時の確認手続きへの協力義務、犯罪歴発覚時の配置転換や解雇、個人情報管理のルールを就業規則へ明記する必要があります。
- 「不適切な行為」の禁止: 直接的な性暴力だけでなく、SNSの私的な連絡や密室での行動など、性暴力につながる恐れのある行為を禁止する服務規律の追加が求められます。
- 実務上の注意点: 就業規則の変更は労働条件の「不利益変更」にあたる可能性があるため、職員への十分な説明と理解、労働基準法に基づく適切な手続きが不可欠です。
1. 日本版DBS(こども性暴力防止法)の概要と保育園への影響
制度の目的と保育園の義務
本制度は、こどもと日常的に接する立場の者が、その優越的な立場を利用して性暴力を引き起こすことを未然に防ぐための仕組みです。
認可保育所や認定こども園などの「対象事業者」には、以下の措置が義務付けられます。
- 特定性犯罪前科の有無の確認(照会)雇入れ時や配置転換時、およびその後5年ごとに、対象業務従事者に特定性犯罪前科がないかを確認する義務。
- 児童対象性暴力等が行われるおそれがある場合の防止措置犯罪歴が確認された場合や、日常的な不適切行為(SNSの私的交換など)が発覚した場合に、こどもと接する業務から外すなどの措置を講ずる義務。
- 研修および相談体制の整備職員への定期的な研修の実施や、こども・保護者・職員が被害や疑いを訴えやすい相談窓口の設置義務。
対象となる職員(対象業務従事者)
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保育士資格の有無に関わらず、保育園の業務において「こどもとの間に支配性、継続性、閉鎖性を有する関係」が生じる可能性のある職員が広く対象となります。
保育士、保育補助はもちろん、調理員、事務員、送迎バスの運転手など、日常的にこどもと接する機会がある場合は対象に含まれると考えられます。
2. 【項目別】就業規則の具体的な変更ポイントと規定例
従来の就業規則には「こどもへの性暴力」や「国のシステムを用いた前科照会」を想定した規定が存在しません。トラブルを未然に防ぐため、以下の5つのポイントで就業規則の改定を行うことが推奨されます。
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ポイント①:採用・試用期間に関する規定(手続への協力と経歴詐称)
採用選考時や入社時に、本制度に基づく「犯罪事実確認」の手続きに応じる義務があることを明記します。また、確認の結果、特定性犯罪前科があった場合や虚偽の申告があった場合、採用の取消しや試用期間中の解雇ができる旨を規定します。
【現在の就業規則の傾向】
一般的に「履歴書に虚偽があった場合は採用を取り消す」という記載はありますが、DBS制度の手続きに特化した記載はありません。
▼ 就業規則の変更・追加例
(採用時の提出書類及び手続)
第〇条 新たに採用された者は、採用日から〇日以内に次の書類を提出しなければならない。
一〜五 (履歴書、健康診断書などの既存項目)
六 こども性暴力防止法に基づく犯罪事実確認の手続に必要な書類(同意書等)
(犯罪事実確認の手続に応じる義務)
第〇条 従業員は、法人の指示に従い、こども性暴力防止法に基づく特定性犯罪前科の有無の確認(以下「犯罪事実確認」という。)に必要な手続等に誠実に対応しなければならない。
(採用の取消し・試用期間中の解雇)
第〇条 採用内定者又は試用期間中の者が次の各号のいずれかに該当するときは、採用を取り消し、又は解雇する。
一 (既存の解雇事由)
二 学歴、職歴、犯罪歴等の重要な経歴を詐称して雇用されたことが判明したとき
三 犯罪事実確認の結果、こども性暴力防止法に定める特定性犯罪前科があることが判明したとき
ポイント②:服務規律(児童対象性暴力と「不適切な行為」の禁止)
こども家庭庁のガイドライン案では、直接的な性暴力だけでなく、グルーミング(手なずけ)につながる「不適切な行為」を就業規則等で明確に禁止することが求められています。
【現在の就業規則の傾向】
「園児に優しく接する」「園の秩序を乱さない」といった抽象的な服務規律が多く、SNSの禁止や密室でのルールなどが明文化されていないケースが散見されます。
▼ 就業規則の変更・追加例
(児童対象性暴力等の禁止)
第〇条 従業員は、児童等に対し、こども性暴力防止法に規定する児童対象性暴力等を行ってはならない。
2 従業員は、前項につながり得る不適切な行為として、次に掲げる行為をしてはならない。
一 児童等(保護者を含む)と私的な連絡先(SNSアカウント等)を交換し、業務外の私的なやり取りを行うこと
二 私的に児童等と施設外で会うこと
三 業務上必要な範囲を超えた不必要な身体的接触(過度なスキンシップ、膝に乗せる等)を行うこと
四 業務上必要な場合を除き、密室等において児童等と2人きりになること
五 私物のスマートフォン等で児童等を撮影すること、又は正当な理由なく画像を所持すること
ポイント③:配置転換・普通解雇の規定(犯罪歴発覚時の対応)
在職中の職員に特定性犯罪前科があることが発覚した場合、事業者は「こどもと接する業務」から外す義務を負います。配置転換を命じる根拠規定と、配置転換先がない場合の普通解雇の規定を整備します。
【現在の就業規則の傾向】
「業務の都合により異動を命じることがある」という一般的な規定はありますが、法令に基づく強制的な職務変更や、それに伴う処遇の変更についての規定が不足しています。
▼ 就業規則の変更・追加例
(配置転換等)
第〇条 園は、業務上必要がある場合、又はこども性暴力防止法に基づく防止措置として必要があると認めた場合、従業員に対し、就業する場所の変更又は従事する業務の変更(こどもと接しない業務への配置転換を含む)を命ずることができる。
2 従業員は、正当な理由なく前項の命令を拒むことはできない。
(普通解雇)
第〇条 従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、解雇する。
一〜四(既存の解雇事由:勤務成績不良など)
五 犯罪事実確認等の結果、特定性犯罪前科があることが確認された場合等において、こども性暴力防止法に基づく防止措置として配置転換等を検討したものの、法人の規模や人員配置の状況等から他の業務への転換が困難であり、雇用を継続し難いと認められるとき
ポイント④:懲戒事由の明確化
日本版DBSに関連する義務違反や禁止行為違反があった場合、速やかに懲戒処分(けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇など)を行えるよう、事由を具体的に列挙します。
▼ 就業規則の変更・追加例
(懲戒解雇事由)
第〇条 従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。
一 こども性暴力防止法に規定する児童対象性暴力等を行ったとき、又はそれにつながる重大な不適切行為を行ったとき
二 採用選考において、犯罪歴等の重要な経歴を詐称していたことが雇用後に判明したとき
(普通懲戒事由:けん責・減給・出勤停止等)
第〇条 従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給、又は出勤停止とする。
一 正当な理由なく、本規則に定める犯罪事実確認の手続に応じないとき
二 第〇条第2項に定める「不適切な行為(SNSの私的交換等)」を行ったとき
ポイント⑤:個人情報保護と守秘義務
犯罪歴は「要配慮個人情報」の最たるものです。情報漏洩は園の存続に関わる重大な事態を引き起こすため、情報の目的外利用や漏洩を厳格に禁止する規定を設けます。
▼ 就業規則の変更・追加例
(守秘義務及び個人情報の保護)
第〇条 従業員(人事労務担当者、管理職等を含む)は、こども性暴力防止法に基づく確認手続等において知り得た他の従業員の犯罪事実確認の結果等の情報(特定性犯罪前科の有無に関する情報を含む)を、同法が定める目的以外に利用し、又は第三者に漏洩してはならない。在職中はもちろん、退職後も同様とする。
3. 就業規則改定における実務上の注意点
規定を書き換えるだけでなく、導入・運用にあたっては以下の法的なステップを踏むことが強く推奨されます。
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① 不利益変更への慎重な対応と十分な説明
就業規則に新たな解雇事由や懲戒事由を追加することは、労働条件の「不利益変更」に該当する可能性があります(労働契約法第9条、第10条)。
法的な有効性を持たせるためには、変更内容が「合理的」であることが必要です。本件の場合、法令(こども性暴力防止法)の遵守という極めて合理的な目的がありますが、それでも全職員に対して「なぜこの規定が必要なのか」「こどもの安全と園を守るためであること」を丁寧に説明し、理解を得るプロセスが不可欠です。
② 労働基準法に基づく意見聴取と届出
就業規則を変更する場合、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者の「意見書」を添付し、労働基準監督署へ届け出る義務があります(労働基準法第89条、第90条)。
③ 解雇権濫用法理との関係(即時解雇のリスク)
犯罪歴が発覚した、あるいは不適切行為があったからといって、機械的に即日「懲戒解雇」とすることは、不当解雇(解雇権の濫用)とみなされる法的リスクがあります。
こども家庭庁のガイドラインでも、まずは「配置転換」や「業務範囲の限定」といった防止措置を検討し、園の規模等の事情でどうしても他の業務(事務専任など)を用意できない場合に限り、最終的な手段として普通解雇を検討する、という段階的な対応が求められています。
④ 相談窓口の整備と風通しの良い職場づくり
規則で「SNS交換の禁止」などを定めても、実態として守られなければ意味がありません。ルール化と並行して、「他の職員の少し不自然な行動」に気づいた際に、躊躇なく相談できる風通しの良い職場環境づくりや、匿名で通報できる相談窓口の設定を整備していくことが実務上の鍵となります。
4. 参照した主な公的情報元
本記事の内容は、以下の公的機関の発表資料等に基づき作成しています。最新の情報は各リンク先よりご確認ください。
- こども家庭庁:「こども性暴力防止法について」https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety/efforts/koseibouhou
- こども家庭庁:こども性暴力防止法施行準備検討会(ガイドライン案・就業規則参考例等)https://www.cfa.go.jp/councils/koseibo-jumbi
- e-Gov法令検索:「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」https://www.google.com/search?q=https://laws.e-gov.go.jp/law/506AC0000000069/
免責事項:本記事は一般的な解説とモデル規定を提供するものであり、個別の事案に対する法的な保証を行うものではありません。実際の就業規則の改定にあたっては、自園の現状の規定を精査した上で、必要に応じて社会保険労務士や弁護士等の専門家にご相談されることを推奨いたします。
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