はじめに(リファラル採用の基礎のおさらい)
幼保施設の採用において、コストを掛けずに成果を出す方法として相性の良い手法がリファラル採用です。
保育のカタチでは、リファラル採用の基礎として、メリットやデメリット、成功のためのポイントをご紹介しました。
この記事ではその基礎を踏まえて、具体的な幼保施設のリファラル採用の進め方についてご紹介します。
実際にリファラル採用をしてみたいと思われた方の参考になれば幸いです。
リファラル採用の具体的な進め方(総論)
リファラル採用は後ほど注意点の所でも述べますが、いきなり全社員が参加して行わないというのがスタートラインです。
少人数のプロジェクトで、スモールスタート→改善をしていくことで小さな成功を積み重ねて仕組みを作り、最終的にプロジェクトの規模を大きくしていきます。
具体的には、以下のような手順で進めていくことになります。
◯チームの顔合わせ(キックオフ)
・リファラル採用そのもののインプット
・欲しい人材の設定
・人脈の洗い出し、棚卸し
・運用ルールの作成
◯リファラル採用の準備
・自園の魅力の設定
・自園の課題の解決
・園の中期経営計画の作成
・アピールできる資料の作成
・リファラル採用の仕組みづくり
◯リファラル採用の本格スタート
・友人知人への声かけ
・定期的な進捗確認と改善
プロジェクトのメンバー選定
まずはプロジェクトを始めるにあたり、メンバーを選ぶ必要があります。
リファラル採用の成功のポイントの一つは、トップの本気度です。
メンバーの選定においても、トップがメンバーを選び、面談においてプロジェクトの重要度を丁寧に説明します。
そのうえで、リファラル採用プロジェクトへ参加の意思があるかを確認していきます。
どのようなメンバーを選ぶかの判断基準として、園の経営陣と、園のことが好きな人、という基準を目安にしてください。
メンバー選びはプロジェクトの成功に対して大きな影響を与えます。園へのロイヤリティーが高いメンバーを選定しましょう。また、メンバーの属性は採用したい人と近しい方がおすすめです。
なぜなら、ターゲットに近い人脈を持っている可能性が高いからです。
また、よりよい条件として、メンバー育成の観点からも、今後の園を担っていくようなスタッフがメンバーになると尚良いでしょう。
メンバーを選定したら、そのうちの1人をリーダーとして
・プロジェクトの進捗管理
・メンバーのリファラル採用活動量の管理
・メンバーのマネジメント
・プロジェクトに対する人事
・ノウハウの共有
・トップへの報告
という役割を与えて、推進に対しての責任を持ってもらいます。
チームの顔合わせ(キックオフ)
チームメンバーの選定と役割を決めたら、最初に顔合わせのミーティングを行います。
ここで、時間を掛けて、改めてリファラル採用の重要性を話すことで、メンバーのモチベーションを高め、その後は以下の点について話していきます。
・リファラル採用そのもののインプット
・欲しい人材の設定
・人脈の洗い出し、棚卸し
・運用ルールの作成
アピールのための資料作り
アピールのための資料は、求職者に対して効果的な採用ツールとしての機能はもちろん、作成プロセスにおいても重要な意味を持ちます。
この資料を経営者と二人三脚で作成することで、メンバーの自社理解が加速度的に深まります。また、このプロセスの中でメンバーが提示した自社課題を経営者と解決していくことで、メンバーの園へのロイヤリティーも合わせて深まります。
資料作りを経て、メンバーはさらに園と経営陣のことが好きになり、理想のリファラル採用メンバーになり、採用の成功率が高まります。
リファラル採用の仕組み化
リファラル採用は、スタッフの知人友人の中にたまたま求職者がいて、自園に興味を持ったので役員に紹介して採用が決まる、というような偶然の産物ではなく、明確な採用目標と人物像の設定をもとに、組織として仕組みの力でスタッフの知人友人にアプローチすることが求められます。
具体的には
・きっかけを作るためのプロセス
・アプローチを成功させるプロセス
・リファラル採用の選考プロセス
・内定から入社までのプロセス
を作成することで、属人的で偶発的なものから、組織的に仕組み化された採用へ変化させることができます。
リファラル採用のスタート
ここまでの準備段階が整って、はじめてリファラル採用活動をスタートさせることが重要です。準備に時間をかける、すなわちメンバーがより自園への理解を深め、好きになることで、自園を知人や友人に紹介したいと思える状態を作ってから動くことが、リファラル採用成功のポイントです。
実際に活動をスタートさせた後は、アプローチの進捗状況を確認し、活動の中で気づいた課題について改善を繰り返していきます。
それぞれの手順を進めるためのポイント(各論編)
欲しい人物像の設定
リファラル採用を行うにあたって、メンバーが「自園がどのような人物を求めているか」を理解することは非常に重要です。
求める人物像を理解していなければ、自分の知人友人が求める人物像に合致しているか確信を持てず、アプローチすることができなくなってしまいます。
ターゲット、園双方に迷惑をかけるのでは、という不安から、動けなくなってしまう可能性があります。
この不安を解消するために、顔合わせのミーティングで、メンバー全員が欲しい人物像をすり合わせる必要があります。
具体的には、
・自園に合う人柄か
・自園で活躍するために必要なスキル
上記の観点で考えます。
リファラル採用の場合、より詳細に上記条件を言語化する必要があります。
なぜなら、詳細に言語化された内容から、メンバーが知人友人が自園に合いそうかどうかを判別できる必要があるからです。
言語化を詳細に行っておくことで、マッチングの精度が高まります。
自園に合う人柄かを言語化する
「このような人と働きたい」「このような人とは働きたくない」という切り口で、要素を洗い出していきます。抽象的な言葉ではなく、具体的な言葉で表現することが重要です。
自園で活躍するために必要なスキルを言語化する
自園で活躍するために必要なスキルについては、通常の採用よりも広めに設定することがポイントです。通常の採用でも、条件を高く設定してしまうことで応募が集まらない、ということが起こりがちです。
リファラル採用であれば、なおさらメンバーの動きやすさに制限がかかってしまう恐れがあります。そこで、必要なスキルは最低限必要なスキルのみを設定することが重要です。
メンバーの意見を取り入れながら、決定していきます。
例えば自園に最高に合う人柄だった場合、最低限どのようなスキルを持っていれば良いか。
という視点で考えてみることもおすすめです。
ここでメンバー全員に、欲しい人材についての共通認識ができることで、人脈の整理が適切かつスムーズに行えるようになります。
職員の人脈の棚卸し
上で述べた、欲しい人物像が明確化できたら、その人物像に合った人脈を洗い出していきます。
営業活動などでいうと、「リスト作り」にあたるプロセスです。この部分のリストがうまく作成できなければ、どれだけ自園が好きでもリファラル採用が成功しません。
目安としては、メンバー1人につき、10〜15名のリストが作成できると、リファラル採用成功の可能性が高まります。
よく聞かれることとして「スタッフに人脈がなくて困っている」
というお悩みや失敗談がありますが、これまで生きてきた中で、知人友人が存在しない、ということは考えづらいことです。
本当の理由として、
・スタッフが園のことを好きではない
・欲しい人材が明確になっていない
・欲しい人材の理想が高い
・アプローチする人脈の洗い出し方を伝えられていない
ということが考えられます。
そこで、上記のような失敗を防ぐため、人脈のリスト作成に有効な3つのポイントをご紹介します。
1.必ず紙に書き出す
2.1%でも可能性があれば書き出す
3.その人自身ではないが、良い人脈を持ってそうな人を書き出す
この3つのポイントを意識して、人脈を書き出してみてください。
特に2のポイントに関しては、この基準があれば、メンバーの自己判断でリストに入れなかった人脈をリストに加えることができるようになります。
是非意識してみてください。
リファラル採用を運用するときのルール
リファラル採用活動を行うにあたって、どのように運用していくかというルールを設定することで、メンバーは安心して活動に臨むことができます。
例えば、
・アプローチ時の交際費のルール
・交通費のルール
・書類選考や適性検査を行うかどうか
・内定後の猶予期間を設けるかどうか
・紹介料を設定するかどうか
などを事前に設定しておくことが重要です。
特に、書類選考や適性検査を設定したことで、もしメンバーからの紹介者が書類で落ちてしまった時は、メンバーの今後の活動にも影響が出てしまう可能性があるので、できれば書類選考は行わずに、面接までは確定させておくというのもおすすめです。
内定後の猶予期間については、内定を出した後、2年までは入社の猶予を設けるなど、決断を迷っている求職者に対して内定を保証する期間を作ることです。
この期間を作っておくことで、今はすぐには転職を考えていなさそうな候補者に対しても、メンバーが安心してアプローチを掛けておくことができるようになります。
自園の魅力の洗い出し
リファラル採用に成功するためには、
「自園を紹介したいとスタッフに思ってもらう」
「スタッフの話を聞いて、転職したいと思ってもらう」
上記の2つのステップが必要です。
このステップを有効に機能させるためには、自園の魅力が適切に設定されており、その魅力をスタッフが理解し、他者に伝えられる状態を作る必要があります。
しかし、自園の魅力を設定するためには、下記の2点を乗り越える必要があります。
・自園の魅力の全体像の把握が難しい
・内部からは魅力が見えづらい
この問題を解決するために、以下の作業を行います。
・魅力をとにかく洗い出す
・洗い出した魅力をグループ化する
・グループ化した魅力をまとめる
・外部からの視点で魅力を追加する
・自園らしい表現に直す
まずは、どんな些細なことでも良いので、自園の魅力を洗い出していきます。この時のポイントは、大小や、他園との比較は考慮しないこと。
思いついたことを制限なしに洗い出していきます。
次に、洗い出した魅力をグループごとに分けます。
グループに分けたものを、整理して、知り合いに話せるような形にまとめます。
例えば、グループごとにタイトルをつけて、その説明、という形です。
さらに、自園では見えない魅力を、取引先、保護者などの第三者からヒアリングして、必要であれば追加します。これによって、内部からは見えなかった魅力が可視化されます。
最後に、全てをまとめて自園らしい表現に直します。
このプロセスによって、メンバーは自園の魅力をより意識するようになり、成果に近づくことができます。
自園の課題の洗い出し
リファラル採用で知人や友人に自園を紹介する際のポイントとして、ありのままの現状を伝えることが重要です。
園の良いところばかりを伝えて、課題を全く伝えなければ、入社後に直面した園の課題にマイナスのギャップを感じてしまったり、最悪の場合は早期離職につながってしまいます。
そこで、魅力と同様、課題についてもメンバーで徹底的に洗い出しを行います。
このプロセスでは、トップを始め経営陣の姿勢が重要です。園の課題は、間違いなく経営陣にとって耳の痛い話になります。もしこれに憤慨するような状況では、メンバーは安心して意見を出すことができません。
トップとして、この耳の痛い話を聴く、ということ、候補者に嘘をつかない、ということの2点について宣言する必要があります。
その上で、席を離れて、メンバーの心理的な安全を保った状態で課題を洗い出すという時間を設けることもおすすめです。
課題を洗い出したのち、出た課題について3つの分類を行います。
・すぐに解決するもの
・時間をかけて解決するもの
・候補者に受け入れてもらいたいもの
この3つを分けることで、園が現在の課題に対してどのようなスタンスなのかを候補者にわかりやすく示すことができます。
ありのままを候補者に伝えつつ、解決のための考えを持っていることがアピールできれば、状況が悪いことを後で知るよりもより誠実な印象を与えることができます。
園の中期経営計画の策定
候補者にありのままの課題を伝えるだけでなく、さらに一つ先の、今後の園はこうなるという計画を示すことで、より候補者に良い印象を持ってもらうことができます。
魅力、課題、園の将来像をセットで伝えることで、候補者に強くアピールすることができます。
以下の3つのポイントを軸に、計画を作ってみてはいかがでしょうか。
(3〜5)年後にどのような園になっていたいか
この問いには経営者が回答する必要があります。
自園の描く姿を具体的に言語化していきます。
実現のために必要なこと
メンバーも合わせて、上記のビジョンを実現するために必要なことを洗い出していきます。その中から、アピールに有効なものをピックアップして、まとめていきます。
魅力を作成した際の手順を参考にしてみてください。
時間のかかる課題の解決策
課題を発見した際に洗い出した、時間のかかるものについての解決の道筋を考え、今後の計画に追加します。
例えば、給与に対して時間のかかる課題と認識しているのであれば、3年後に基本給の平均上昇率10%、などの目標と、そのための道筋を示すことで、園の将来像を伝えることができます。
アピールのための資料作り
これまで整理した情報から、候補者に効果的にアピールできる資料を作成します。
掲載する事柄は、以下を参考にしてみてください。
■園の紹介
・会社概要、事業概要、実績(沿革)
・過去5年間の取り組み
・経営者の人となり、プロフィール(堅苦しいものではなく、人間味が出るようなもの)
・園の日常(写真などでイメージが作れるように)
・園の魅力
・園の課題
・園の中期計画、ビジョン
■こんな人と働きたい、仲間の紹介
・こんな人と働きたい、こんな人はNG
・園で一緒に働く仲間の紹介
■人事制度についての紹介
・標準の年収モデル
・チャレンジしてもらいたい仕事
・スキルアップや能力開発制度
この資料で一目で園の魅力や、自分が入社した後のイメージを作れるものにすると効果的です。
リファラル採用の仕組み化
実際に動き出す前に、動き方について仕組み化しておくことで、改善がしやすくなります。
特にアプローチの際は、どのような手順でアプローチしていくのかをフローにしておくことで、どの部分がうまくいかなかったのかが可視化できます。
きっかけを作るためのプロセス
欲しい人物像の候補者に会った時のファーストコンタクト時に何をどう話すか、という流れをまとめておくことが重要です。
例えば、
・普段通りの会話
・仕事の話(傾聴を意識、8割は聴くスタンス)
・自分の仕事や園の状況を自然に話す
・アプローチ
という流れを作っておくことで、相手の状況を知ってからアプローチをすることができるようになります。
アプローチを成功させるプロセス
ここからは団体戦として、興味を持ってくれた知人友人を、イベントや勉強会などの集まりに参加してもらえるように促していきます。もし園内にあれば、既存のものを活用してもよいですし、ない場合はこのタイミングで作ってしまうのもおすすめです。
リファラル採用の選考プロセス
アプローチが成功し、選考を受ける意思を持ってくれた候補者に対しての選考のプロセスを決めておきます。
選考プロセスの決定にあたっては、以下のポイントを参考にしてみてください。
・通常の採用における選考プロセスよりも簡略化する
・面接担当を、信頼できる上長やマネージャー、代表に
・万が一の落選時に、フォローの仕組みをつくる
上記の仕組みを作っておくことで、安心して選考に臨んでもらうことができます。
内定から入社までのプロセス
もし内定が出た後に、じっくり考えたい、検討したいという候補者がいた場合、どのようにして最終的に承諾してもらうか、というプロセスを考えておく必要があります。
例えば、
・園内や本部に会ってみたい人がいれば、時間を作る
・不安な点や悩み、本音をヒアリングして、払拭するための提案をする
・実際に、園への見学や体験をしてもらう
などの仕組みをつくっておき、内定者が前向きに入社できるようにすることで、リファラル採用の成功の可能性が高まります。
注意点
最後に、リファラル採用を行うにあたって、以下の3つの点には注意が必要です。
・いきなり全社員でスタートしない
・リファラル採用の報奨金(紹介料)を周知する
・経営者ではなく、人事部が主導で行う
リファラル採用を始めるに当たっては、事前の綿密な準備が必要です。この準備には、少人数のチームが適しています。また、いきなり全員で開始してしまうことで、いわゆる「社会的手抜き」という状態が発生し、プロジェクトチーム自体の動きも鈍くなってしまいます。
また、リファラル採用についてはお金で社員が動くということはほとんどありません。スタッフが自ら自園を知人に紹介したいと思えるような園づくりを最初に考えることが重要です。
もし人事が主導で行うと、スタッフの日々の仕事よりも優先すべき事項であるという認識が希薄になり、推進力が落ちてしまいます。経営者が重視している、最優先のプロジェクトだという思いが伝わるためには、経営者主導で行うことが重要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
かなり具体的にリファラル採用の動き方についてご紹介させていただきました。
リファラル採用は幼保施設と特に相性の良い採用手法です。通常の採用手法にお困りであれば、是非リファラル採用にチャレンジしてみてください。